2022年に施行された電子帳簿保存法の改正で税理士の業務はどう変わる?
2023/10/31
電子帳簿保存法は近年のデジタル化・ペーパーレス化の流れを受け、何度も法改正が行われて世の中の流れに対応してきました。さらに、令和3年度の税制改正大綱が定められ、その中では、国税関係の書類を電子データの方法で保存するための要件を定めた「電子帳簿保存法」について、大きな改正事項が盛り込まれ施行されました。
帳簿書類を電子的に保存する際の手続等について、抜本的な見直しがされています。こちらでは、具体的にどう変わるのか、さらに実務にどのように影響があるのかを解説いたします。
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コンテンツ目次
電子帳簿保存法とは
企業が日々事業を行うなかで、請求書や納品書などの取引に関する書類や取引内容を記載した仕訳帳など、多くの国税関係帳簿書類が発生しています。これらの帳簿書類を紙で管理している企業は、月別・組織別にナンバリング・ファイリングして保存していることと思います。そこには社内での紙のやり取りを伴う非効率な業務、保管場所・コスト、管理に関する手間など様々な問題があります。
これらの国税関係帳簿書類について電子データでの保存を認めるため1998年に制定されたのが電子帳簿保存法です。これにより、紙で保存を義務付けられていた帳簿や書類について、電子保存することができるようになりました。
ただ、当初は電子データとして作成されたデータの保存が対象とされ、紙の書類をスキャンでデータ化し保存することは対象とされていませんでした。そのため、近年の急速なデジタル化の波を背景に、電子帳簿保存法は現在まで時代に合わせた形で複数回の改正がされています。
最初の大きな改正は、2005年にe-文書法が施行されることに伴う形での改正でした。それまで紙の「国税関係書類(決算関係書類を除く)」をスキャナで読み込むことは認められていませんでしたが、電子データ化して保存することができるようになったことが最大の特徴です。ただし、領収書や請求書は3万円未満に限定、さらに電子署名が必要など、厳しい条件がありました。
しかし、2015年になると金額の上限が撤廃され、金額に関わらず電子データ化が可能になりました。また、当初必要とされていた電子署名が不要になるなど、対象書類やスキャンに関する要件の大幅な緩和が行われたのです。そして、2016年にはデジタルカメラやスマホによって撮影された画像などの電子データも容認されるまでに至り、現在はスキャナ保存や帳票類のデータ化に取り組む企業が多くあります。
また、クラウド会計ソフトでは電子データの取り扱いが多くなり、伝票・帳票をスキャンして電子化するツールや機器なども大きく進化しており、様々な面で電子化が加速していることが伺えます。
直近では、2020年10月から、電子取引上で改ざんできない状態であれば電子データそのものが税務上の証明として認められました。これまではスキャナでの保存対象が拡大してはいましたが、基本的には紙の書類を受け取る必要がありました。たとえばキャッシュレス決済の場合に領収書が不要になり、デジタルデータの利用明細が領収書の代わりになるなど、請求書保管の要件が緩和されたのです。
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改正される背景
電子帳簿保存法はこれまでにも時代の変化に伴い、法改正により常にアップデートされてきました。ここ数年は、スマートフォンの普及による消費者行動の変化や、コロナ禍の影響によるリモートワークの増加などが関係し、デジタル化が社会を大きく変化させてきました。それにより、新しいビジネスモデルや製品・サービスなどを展開する企業が次々に登場しています。
そして実際の企業活動には、このような時代背景と、政府により掲げられたグリーン化やDX(デジタルトランスフォーメーション)推進の影響が出てきています。環境問題や保管にかかるコストに着眼点を置いたペーパーレス化の動きに拍車がかかり、また、経済産業省がDX推進を進める動きなどです。
ここでいうDX推進とは、業務の単なるデジタル化ではなく、最新のIT技術を活用することで、組織のあり方や枠組みを新しく作り直し変革していくという意味で使われます。また、コロナの影響から多くの企業が着手したとも言われているテレワークの拡大、これらに対する税制の優遇などの措置が行われるなど、経済社会の流れは大きく変容しています。
そして新たに改正される内容は2022年1月に適用開始されたことにより、利便性が大きく向上することが期待されています。経理の電子化による自社のペーパーレス化や生産性向上、テレワーク推進などを実現するためにも、法改正の内容を把握し、準備することが急務でしょう。
改正内容のポイント
2022年1月の法改正された主なポイントは以下の通りです。
承認制度の廃止
電帳法4条で規定される国税関係帳簿書類の保存方法の特例の適用に当たり、これまで事前に所轄税務署長の承認が必要でした。
この承認制度に関して今回の法改正では一定の要件を満たせば承認を得ることなく電子データでの保存が可能、つまり承認制度が廃止となるのです。承認制度は企業が電子帳簿保存を行うにあたってのハードルとなっていたためこれにより電子帳簿保存の取り組みが広がることが期待されています。
帳簿:2022年1月1日以降開始する事業年度分から適用
書類:2022年1月1日以降保存を開始するデータから適用
スキャナ保存:2022年1月1日以降保存を開始するスキャナ保存から適用
国税関係書類のスキャナ保存の要件を緩和
・タイムスタンプ要件の緩和
スキャナ保存のデータに関し、受領者が自署したうえで3営業日以内のタイムスタンプ付与が必要でしたが、この要件が緩和されます。自署が不要となり、タイムスタンプの付与期間が3日から最長2ヶ月以内に変更されます。スキャンして電子化したデータを訂正または削除した事実やその内容を確認できるシステムに記録する場合はタイムスタンプが不要となります。また、一度保存したデータを訂正または削除できないシステムの場合も同様にタイムスタンプ不要となります。全体に実務における余裕が生まれる内容です。
・適正事務処理要件の廃止(スキャナ保存)
これまでは不正防止の観点から内部統制の一環として社内規程の整備や相互牽制、定期的な検査などが必要でした。今回の法改正では、相互牽制、定期的な検査、再発防止策の社内規程整備などの「適正事務処理要件」が廃止されます。これにより定期検査に必要だった原本(紙書類)が不要となり、スキャン後にすぐ廃棄することができます。相互牽制も廃止されますので、事務処理を2名以上で対処する必要がありましたが、1名で行うことが認められるようになります。
・検索項目を「取引年月日」「取引金額」「取引先」の3項目に限定
電子データは、のちに目的の情報にアクセスしたり、データを管理したりするための検索機能を持たせることが重要です。ただ、これまでは検索条件の要件に、取引年月日、勘定科目、取引金額など多くの項目の設定等が要件としてありました。その複雑な検索機能の設定作業が担当者の負担になっていましたが、今回の法改正で検索の要件が簡素化され、検索項目が「年月日・金額・取引先」のみとなります。
・その他 罰則規定の強化
電子帳簿保存の緩和的な項目がみられる一方、罰則規定が強化されています。国税関係帳簿書類及び電子取引データについては、電帳法の要件に従った保存がされていない場合には、税法上保存義務がある帳簿書類として取り扱わないという内容です。電子帳簿保存を行う事業者のデータについて隠ぺいまたは仮装された事実による期限後申告、修正申告、更生または決定があった場合、重加算税として、通常課される重加算税の額に申告漏れ等に係る本税の10%に相当する金額を賦課します。これはペナルティが重くなる改正内容です。
また、スキャナ保存制度について、更に詳しく知りたい場合は「電子帳簿保存法のスキャナ保存制度について徹底解説!法改正で何が変わったのか?」をご覧ください。
電子帳簿保存法のメリットとは
電子帳簿保存を行うことで得られるメリットには、以下のようなものがあります。
紙関連のコスト削減、グリーン化等への取組み
用紙代・保管費用・運搬費用などのコストの削減が見込めます。また、ペーパーレス化がグリーン化やSDGsの取組みの一環となるでしょう。
業務効率化、働き方改革の促進
経理チェック・紙保管作業の負担が減り、デジタル化による検証や分析の効率化等に役立ちます。同時に電子ワークフローなどのシステム導入をすれば、リモートワークやテレワーク環境での経理処理が可能となり、多様な働き方に対応が可能となります。
コンプライアンスの強化
法令に裏付けされた不正防止の措置を行い、確実でリスクのない文書を保存する仕組みが構築できます。
内部統制の見直し
業務フローの見直しや定期検査の実施により、内部牽制の強化を促すでしょう。
BCP対策
自然災害等による重要書類の紛失のリスクを低減することができます。
注意しなくてはいけない点とは
令和3年度の電子帳簿保存法の改正(2022年4月から適用開始)では、電子化に係る法令要件は大きく規制緩和され、帳簿書類の承認制度廃止やスキャナ保存等の法令要件は大幅に緩和されることとなります。
一方、先述したように、税法で保存が義務付けられる帳簿や書類のデータ、電子取引データが電子帳簿保存法で規定される要件に従って保存されない帳簿書類のデータ等は、税法上の帳簿書類等として取り扱わないこととなります。そしてスキャナ保存や電子取引データの改ざん等により不正計算が行われた場合、重加算税を10%加重賦課されることになりってしまいます。
これらを踏まえ、会計帳簿やその証拠となる取引に関する書類は、作成の証跡やプロセスの検証など事後検証可能性を担保できるような保存方法、改ざん等の不正が行われない体制が望まれます。電子化を検討するのであれば、業務処理プロセスは法令の枠組みで体制を構築するのではなく、企業の規模や業務の形態、書類の種類に応じたコンプライアンスを重視した検討を行う必要があるでしょう。
会計事務所にはどのような影響がある?
顧客である企業が電子帳簿保存を検討するとなった場合、どこまでの業務やチェック範囲を請け負うかの整理が必要です。また、その体制整備や業務プロセスに関する相談も増えると想定すると、今回の法改正のポイントなどの情報は必ず把握し、かつ、顧客の企業での取り組みをより実務的なアドバイスが会計事務所や税理士には求められます。また、基本的な電子データの扱いに関する知識に不安がある場合は、その補填も必要でしょう。
経理担当者にはどのような影響がある?
今回の法改正のポイントから、自社がどこまで電子帳簿の保存が可能かを検証することが求められます。電子帳簿保存への取り組みを実践するとなれば、従来の業務プロセスを見直し、新たな体制やフローを構築することが必要です。場合によってはシステム環境などインフラの知識や他部署との連携が必要でしょう。
経理処理に関する業務プロセスや利用するシステムなどに大幅な変更が生じるのであれば、社内で協力し合い、情報を周知徹底することになります。緩和による業務負荷の減少はその先にあると言えます。
まとめ
この記事では令和3年度の税制改正において電子帳簿保存法について解説させていただきました。この他にも新たな時代の経済活動を後押しするような税制改正として、新設される「DX(デジタルトランスフォーメーション)投資促進税制」や押印義務の見直しなどがあります。
ペーパーレスや押印文化の変革など、企業の経済活動はスピード感と効率化が必須条件となってきているなか、コロナ禍の影響などもあり加速しているリモートワークなど、目まぐるしく進化し続けています。2020年に法改正が施行されたことを機に、電子化の検討など今の時代に沿った経済活動の理解を深めてみてはいかがでしょうか。
また、IT活用・DX推進・ペーパーレス・電子取引などの取組みへの姿勢は、企業の業種や規模、方針によって差があるでしょう。もし、これらの直近のトレンドについてより深く理解したいと思われている人で、お勤めの職場では将来的にもあまり関わりがないというようなことであれば、転職を考えてみるのも1つの方法です。
転職活動をすることで、業界のIT活用の状況なども把握することができると思いますので、業界の環境を確認してみてから、転職するというのも良いかもしれません。
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