DXは会計業界にも大きく関係している。税理士も理解しておくべき理由とは?
2024/05/10
デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)、通称「DX」という言葉を誰もが耳にしたことがあるのではないでしょうか。すでにIT化を進めている会計事務所も増えている中、更に進めてDXに取り組んでいる事務所も出てきています。
とくにクライアントがすでにDXを推進、または着手しているようであれば、会計事務所の業務にも影響が出ているはずですので、税理士や公認会計士の方はもちろん、会計事務所で働いている方であれば一般知識として理解をしておかなければいけないワードといえるでしょう。
すぐに会計事務所自体がDXに取り組むかどうかは関係なく、DXという言葉の意味を正確に知っておけばクライアントからの質問や、事務所が取り組む事になった際には必ず役にはずです。
本記事では、DXとは具体的にどのようなことをいうのか、「IT化」「デジタル化」などの似た言葉との違いを整理します。そして、それらの意味や定義を踏まえたうえで、会計業界におけるDXについてわかりやすく解説します。
コンテンツ目次
そもそもDXとは?
DX、「Digital Transformation」の文字だけを見て直訳すると「デジタルの変換」という意味に受け取れます。ただ、実際は、「変換」ではなく「変革」と表現されているのです。この点に着目すると、このDXという意味への理解が深まることになります。
たとえば、国内ではDXに関するトピックとして代表的なものは2018年12月に経済産業省により発行された「『DX推進指標』とそのガイダンス」の中にあります。そこでは、DXとは「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義づけています。
このDXという概念は、2004年にスウェーデンのウメオ大学所属のエリック・ストルターマン教授によって「INFORMATION TECHNOLOGY AND THE GOOD LIFE」という論文の中で初めて提唱されました。そこでは「IT技術の浸透が、人々の生活をあらゆる面でよい方向に変化させる」と述べられ、その後DXは「デジタルによる変革」を示す言葉に変化しました。
さらに、このDXがもたらす「変革」は単純なものではなく、デジタル技術の浸透による破壊的な変革「デジタル・ディスタラプション」ととらえられています。
それは、既存の価値観や枠組みを根本から覆す、革新的なイノベーションを意味します。具体的には、企業や行政などの団体が、ビジネスにおけるもともとの価値観やビジネスモデル・プロセスをデジタル技術によって変えていくことといえるでしょう。
DXの意味はこう理解しよう
・デジタル技術の浸透により人々の生活をより良いものへと変革すること
・既存の価値観や枠組みを覆す、革新的なイノベーションをもたらすこと
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DXの目的は?
このように、DXは学問的な用語から、現在ではビジネス上の定義づけや解釈がなされるようになりました。曖昧でとらえにくい言葉ではありますが、その目的がどんなものなのかを整理しましょう。
現在に至るまで、デジタル技術の活用は幅広く社会全体が進めています。ただ、DXが目的とするのは、デジタル技術の活用やそれによるビジネスにおける効率化にとどまらないのです。
その先に、さらなる改善策を施し、ビジネスモデルを柔軟に変革して新たなビジネス体系を創出することまでを目指しています。そして、そのような変革を続けられるような力を企業や行政などに持ってもらうこと、競争力を高め合うことまでが目的としています。
改めて、DXというものは、デジタル化が進んだ世の中を前提としていて、将来的な社会の課題に対する取り組みを示していると感じるのではないでしょうか。社会全体ではデジタル化の推進によって、日々の過ごし方やモノの価値や人生観などが大きく変化しています。
このような社会に対応するよう、企業や行政などの団体は、ビジネスのあり方や働き方などを見つめ直すタイミングだと示唆しているのがDXなのです。
IT化との違い
DXという用語は近年になって急速に広まったものです。IT分野に苦手意識のある人は特に、うまく理解ができないままでやり過ごしていることもあるのではないでしょうか。
このような話題のキーワードは、似たような言葉と混同しないように整理をしておくことが大切です。たとえばDXと混同されやすい言葉に「IT化」があります。この言葉の意味の違いが明確に説明できない人が多いのではないでしょうか。
IT化は、デジタル技術を駆使して既存の業務を効率化することや、ビジネスの価値を向上させることを目的としています。しかし、DXはその先のビジネスモデルの変革や、ビジネスにおける価値観の変容をもたらすことを目的としている点がIT化と異なるのです。
つまり、DXではIT化が推進されている環境が前提になっています。そのうえで、従来の製品そのものを変えたり、サービスの提供手段を変化させたり新たな手法を取り入れることを目指しているのです。
先述の掲載産業省から発表されたDX推進ガイドラインによれば、変革をもたらすのは製品やサービスだけでなく、ビジネスモデルや業務プロセス、組織や企業文化・風土にまで及びます。
とはいっても、DXをおこなうためにはIT化(デジタル化)を段階的に進めていくのが効率的です。企業がIT化を進めていくことでDXにたどり着くであろう途中段階に、「デジタイゼーション」と「デジタライゼーション」という2つの状態があります。
このことを理解しておくと、DXとIT化の違いについても理解が深まるでしょう。
デジタイゼーションとは
デジタイゼーション(Digitization)とは端的にいうと、「業務の一部の工程をにデジタル技術を活用して業務効率化を図ったりすること」です。業務プロセスは変化することはなく、あくまでもITツールなどを既存の業務に取り入れて業務の効率化を図ったりというデジタル化の初めの段階だと言えます。
具体的な例としては下記のようなことが考えられます。
・CRMツールを導入して顧客データを一元管理する
・クラウド会計ソフトを導入し一部の業務を自動化する
・紙の伝票を電子化して管理する
DXを行う上で、まずはIT化の初段階、デジタイゼーションをクリアしていないと先にすすめることはできないでしょう。まずはデジタイゼーションに取り組まれることをおすすめいたします。
デジタライゼーションとは
デジタライゼーション(Digitalization)とは「デジタル技術を活用することで業務プロセス自体を変革し、新しい業務プロセスを実現すること」です。デジタイゼーションとは違いプロセスをデジタル化するということで、業務の流れ自体を変革することにあります。
具体的な例としては下記のようなことが考えられます。
・CRMツールを活用し、見込み客を分析し購買につながるようなアプローチをする
・紙の伝票などをスキャンしOCRでデータ化し、クラウド会計ソフトの出納帳に自動で記載する
このように顧客データを一元管理するだけではなく、顧客の傾向や目的を分析し見込み客を購買へ導くアプローチをしたりすることでこれまでの業務の流れと大きく変革などが起こることも該当します。
さらには、クライアントから紙の伝票をう郵送または直接受け取り、入力スタッフが会計ソフトの出納帳に入力していた業務が、伝票をスキャンしてもらいPDFファイルや画像ファイルを送ってもらい、それをOCRにかけて電子データ化するこことで会計ソフトにそのまま取り込むような流れを実現することで大幅な業務効率化が図れる様になるとともに、人件費の削減にもつながるということになります。
デジタライゼーションを実現することができれば、DXにだいぶ近づいています。しかし、注意が必要なのは、デジタライゼーションとDXはイコールではありません。デジタライゼーションは業務プロセスの変革のみにとどまりますが、DXではさらに企業の運営全体に対して多くの要因を変革していかなくてはなりません。
デジタライゼーションはデジタイゼーションの次の段階であり、DXを行う上での前段階であることは覚えておいてください。
DXとは
デジタルトランスフォーメーション(DX)とは
DXということ自体は色々な団体や企業により、さまざまな解釈がされていますのが、明確な定義はされていません。
デジタイゼーションは業務の一部、デジタライゼーションは業務プロセスの変革となっており、企業の枠組みのなかでの部分的な取り組みになります。
しかし、DXは企業や業務の枠組みを超え、人々の生活をより良くするために社会全体を変革すること、さらにはデジタル技術の活用による革新的なデジタル・ディスラプションをしていくことになります。
DXを実現できれば、これまでにはなかった全く新しい世界が広がっていることでしょう。
なぜ注目されているのか?
懸念される「2025年の崖」
経済産業省は2018年にDXレポート「ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開」を公開しています。その中で、2025年には21年以上運用されている国内の基幹システムが6割以上を超えることへの懸念が示されていました。
この「2025年の崖」とは、1990年後半~2000年代にかけてのいわゆるERPブームにのって導入したシステムを刷新しないままで継続して使用していることが、デジタル技術による変革が求められる社会に適応したビジネスへの創出への障害となり得ることを指します。この崖に転落してしまうと、2025年以降に大きな経済的損失が生まれる可能性があるのです。
レガシーシステムの課題
この「2025年の崖」にある既存システムやその運用はレガシーシステムと呼ばれます。レガシーシステムは、年数を重ねるにつれシステムの運用や改変が複雑になり、保守費用などのコストも増大傾向にあります。
企業側にはDXの必要性を感じながらも、この既存のシステムが定着している現状から、実際に推進することはなかなか難しく受けとられているようです。
DXレポートでは、レガシーシステムから脱却するために以下のような課題があると示しています。
・既存システムが事業ごとに構築され、全社横断的なデータ活用ができていない
・既存システムが標準システムに過剰なカスタマイズを施しており、複雑化・ブラックボックス化を招いている
・既存システムの改修やデータ活用のための業務見直し要求に対する現場の抵抗が大きい
合わせて、DXレポートではこの課題に対し、必要なのは以下の2点があげられています。
・既存システムのブラックボックス化を解消し、データをフル活用できる状態にする
・デジタル技術を導入し、新ビジネスの創出やグローバルな展開などを促進する
これらには欧米がデータ活用をビジネスに取り入れる動きが進むなか、日本の取り組みが遅れてしまうことで競争力の低下による損失への強い危機感が読み取れます。
今後の深刻なIT人材不足
「2025年の崖」の話題とともにIT業界で懸念されているのが人材不足です。2025年には、日本の人口の4分の1に一人は高齢者になると推測されています。これまでの既存システムを構築・運用していた世代が高齢化し、定年退職や介護のために転職するなど、現場からいなることが予想されます。
システムの全容を知る担当者がいなくなり、保守運用や改修時にトラブルやデータ損失等の影響があり、企業としても放置できない問題です。
時代の変化に適応した仕組みの構築への弊害となると心配されます。
たとえDXの促進を進めようとしても、このような人材不足の問題を解消しなければ、既存のシステムを新たな技術革新に対応させられない可能性があるのです。
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企業がDXに取り組む理由とは
デジタル化が進み、世の中では時間やモノの価値、人との距離感、人生観などが大きく変化しています。また、効率さが求められる場面が多く、利便性が高く煩雑さのないサービスや、日々の生活を快適にする製品などが求められます。コロナ禍の自粛生活が影響し、働き方が大きく変化したことも後押しし、働き方の概念にも変化が見られています。
このような変化に対応するには、ビジネスにおいてこれまで通りのサービスや製品、提供方法では顧客を満足させることはできません。また、雇用する立場として、働き手である社員たちの立場を踏まえた働き方や業務プロセス、それらのツールを検討し、改善することがとても重要です。
たとえば、労働時間の削減ができるだろうという考えから、やみくもに企業内でコミュニケーションツールとしてチャットやテレビ会議などを導入したとしても、それはDXとは言えません。単なるIT化、デジタル化になってしまいます。
DXを推進するということは、自社としてどのようにデジタル技術を活用してサービスの向上や生産性アップ、コストの削減を実現するのかなど、根底から見直すことにあります。
自社のサービス・製品や客層、働き手である社員の傾向などから、どのような仕組みを構築するのが良いのか、デジタル技術を活用して以下にそれらを実現するのか、を検証して実現へとつなげていくのです。
業種に関わらず、DXへの取り組みの方針や骨組みを各々の製品やサービス、業務の特性を踏まえて検討することが大切です。そのうえで行った施策が、思い通りの結果を残さないかもしれません。その場合は、その取り組みの実績をデータ化するなどして分析し、さらなるDX推進の取り組みへと反映していくことが望ましいでしょう。
会計事務所と密接な関係にあるDXとは
IT化やデジタル化による新たなサービスの必要性
IT化・デジタル化は会計業界でも拡大しています。これまでサービスの大半となっていた記帳業務や会計ソフトへの仕訳入力などがAIによる自動記帳に切り替わるなど、さまざまな業務が自動化されています。この先も、税理士や会計士などの資格保有者が独占できる業務でないものはITやデジタルの活用が進んでいくでしょう。
会計事務所は、これまでの業務がデジタルに置き換わった分、サービスでクライアントを満足させる必要があるのです。そのためにも、DX推進の取り組みを実践し、サービスやビジネスモデルを創出することは、会計業界全体の課題といえるでしょう。
働き方の変革は必須の課題
昨今の働き方への価値観の変化は、会計事務所でも見過ごすことはできません。年末や年度末など、繁忙期は業務過多になりやすいというイメージが強い会計業界ですが、個人のライフスタイルを重視するという価値観は業界問わず拡大し、会計業界でも過重労働に対して敏感になりました。
また昨今のIT化・デジタル化を背景に徐々に改善される傾向が見え始めています。業務しやすい環境やツールを見直すことは人材確保の側面から経営に大きく影響するでしょう。より環境の整った異なる職場に人材が流出するリスクへの対策や、新たな人手の確保には、DX推進による働き方の変革をもたらすことが必要です。
国のDX推進施策とクライアントへの対応
経済産業省では「DX認定制度」という仕組みを導入しています。これは、デジタル技術による社会変革を踏まえた経営ビジョンの作成・好評といった経営者に求められる対応を「デジタルガバナンス・コード」として定め、この中の基本的事項に対応する企業を認定する制度です。
そして令和3年6月に公布された「産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律」により新設される、「DX投資促進税制」や国内の上場会社を対象にした「DX銘柄」の選定要件でもあります。
これらの施策をきっかけにクライアントからDXの意味や他社の事例を聞かれるなどの対応が求められるでしょう。その中で、知識として知っておくことはもちろん、会計事務所としてどんなことができるのかを意識することは大切なのではないでしょうか。
まとめ
いかがでしょうか。DXの目的や取り組み内容のイメージが具体的ではないと、その重要性が理解できないまま流してしまう可能性があります。しかし、社会全体としてデジタル技術の活用は拡大するのは間違いなく、そしてビジネスの価値やライフスタイルの在り方は変遷し続けるでしょう。
DX推進への理解を深め、どうビジネスに活かすか、どのように変革していくのかとういう視点を持つことが大切です。
もちろん会計業界でもこれは関係が深いもので、たいへん重要な取り組みです。今後も競争が激化する中、2025年の崖を乗り越えて勝ち上がっていくためには、DX化を進めて差別化を図っていくことが、会計事務所にとっても大きなポイントになります。
とくに、DXは競争の激しい中小企業、中小の会計事務所で積極的に取り組むことでアドバンテージを得ることができるのではないでしょうか。
実際にすぐにDXの推進ができなかったとしても、会計事務所におけるDXをイメージすることは今後の業務で役立つ場面があるはずです。本記事を参考にしてぼんやりしていたものを少しでも明確にし、DX推進の第一歩としてください。
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その一環として、会計業界でお役に立つ情報をお届けするために10年以上記事を書いています。是非、会計業界で働く人が楽しく、知識を得られるような情報をお伝えできればと思います。
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