法改正への対応と税理士の研修義務
2023/11/01
先日、公認会計士複数名による継続的専門研修(CPE)の不正受講が発覚し事件となりました。公認会計士の事件ではありますが、税理士にも研修の義務があり完全に無関係とは言えません。今回は税理士の研修義務について解説していきます。
コンテンツ目次
会計士の研修不正受講問題
2020年9月、あずさ監査法人に所属する公認会計士複数名による継続的専門研修(CPE)の不正受講が発覚しました。継続的専門研修とは、公認会計士としての使命及び職責を全うし、監査業務等の質的向上を図るために公認会計士法第28条において義務付けられている研修です。
不履行者には履行の指示や業務の辞退勧告などの措置や、それ以上の処分を課せられる可能性もあります。
日本公認会計士協会の手塚会長は11月下旬の記者会見にて、公認会計士による研修不適切受講の問題の処分が2021年2月にも決定される見通しと述べました。eラーニング等で複数の講座を同時受講した会計士が合計87名、うち45名が必要な単位数を取得していませんでした。
税理士の36時間研修受講義務
公認会計士だけではなく、現在は税理士にも研修受講義務があります。2001年の税理士法改正時に「研修を受けるとともに、自ら研鑽に努めなければならない。」と研修の受講努力義務が規定され、2015年には税理士会の会則変更により研修受講が義務化されました。
具体的には、税理士会員は事業年度(4月1日~翌年3月31日)に所属する税理士会および日本税理士会連合会等が行う研修を36時間以上受ける必要があります。事業年度の中途入会者も、入会した月の翌月からの月数按分時間の受講が義務付けられています。
現在のところ罰則は特にありませんが、2019年10月からは日本税理士会連合会の税理士情報検索サイトで研修の受講時間や達成率が公表され、努力義務を果たしているか誰でも知ることができるようになっています。
税理士情報検索サイトの公開情報
日本税理士会連合会に現在登録されている全ての税理士及び税理士法人の情報が検索できるサイトがあります。
ここでは名前・所在地での検索や、条件を指定しての検索、地域・所属会からの検索が可能になっており、研修の受講時間及び研修の受講義務の免除に関する記録(前年度分)も公開されています。
<公開情報>
1.氏名
2.登録年月日
3.事務所所在地・名称・電話番号
4.公職による業務停止・懲戒処分
5.研修の受講時間及び研修の受講義務の免除に関する記録(前年度分)
<任意公開情報>
1.性別
2.生年
3.事務所のFAX番号・メールアドレス・ホームページアドレス
4.主要取扱業務及び業種
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税理士研修の種類
税理士36時間研修の受講時間として認められる研修は下記のとおりです。なお、1・2に関しては、マルチメディア研修以外は原則1か月以内に受講記録が登録され、申請は特に必要ありません。
1.税理士会・日税連・支部等が主催、共催、協賛、後援する会員研修
現在はコロナウイルス感染防止の観点から、マルチメディア受講が推奨されています。通勤マルチ研修として30分の短い研修も多数用意されており、スマートフォンでも隙間時間に受講できるようになっています。
また、税理士登録時研修や公開研究討論会等も36時間の研修対象です。
登録時研修 | 税理士の業務の改善進歩と資質の向上を図るため、税理士の登録を受けた日から1年内の税理士を対象として研修が行われています。 |
公開研究討論会 | 税制等の改善合理化と税理士の資質向上を図るため、全国15税理士会を7グループに分け、税理士の日頃の研究結果の発表と質疑応答を行っています。 |
2.認定研修
大学等や民間団体が実施する研修も事前に認定されているものがあります。
認定されている研修は税理士研修サイト等に案内が掲載されており、そちらから申し込むことができます。
3.その他の研修
認定研修ではない大学や士業団体等が実施する研修のうち、税理士会員からの事後申請により税理士会が認めた研修は一事業年度につき18時間を限度として受講時間に含めることができます。事後申請は受講した翌月の15日までに研修サイト等から申請します。
なお、インターネットによる受講や書籍などの執筆、少人数グループの勉強会などはその他の研修に該当しません。
女性税理士の研修
1958年に設立された全国女性税理士連盟(女税連)でも、月例会やブロック会等年間を通じて、東西両支部において研修会が積極的に開催されています。
通常の税務実務に関する研修だけでなく、税理士事務所におけるハラスメント対策といった女性視点の研修も一部提供されています。
税理士を目指す女性の方は、研修内容等を女税連のHPで確認することが可能ですので、チェックしてみてください。
受講義務の免除
一定の場合には、所属する税理士会に対して一事業年度ごとに事業年度終了日の3か月以内に免除申請書を提出することができ、必要な手続きを行えば受講義務が免除されます。
・負傷又は疾病により療養している場合
・震災、風水害、火災などの災害にあった場合
・税理士法第43 条後段に規定する報酬のある公職に就いている場合
・国会議員又は地方公共団体の議会の議員である場合
・出産、育児、介護などによる場合
研修受講は税理士の責務
今年はコロナウイルス感染拡大の影響で、マルチメディア研修の提供が充実し、結果的に研修受講義務を果たしやすい環境が整えられつつあります。所属していない他の税理士会や支部等の研修会にも受講許可を得て出席すれば受講時間に参入されます。
研修内容は、税制改正のポイントや最近の注目判例の解説等、実務に役立つ多種多様な情報が提供され、税理士としての知識の更新を十分にサポートする内容となっています。 税理士は、税理士として活動するためには税理士会に登録・所属しなければならず、年会費を約10万円~15万円程度支払っています。税理士会の研修は無料~数千円で受けられるものも多いため、せっかくなので税理士会に入会後は上手に活用することをおすすめします。
公認会計士の研修が任意参加から業界団体による自主規制、最終的には法定義務になっているので、今後税理士も同様の状況にならない保証はありません。
そもそも、税理士は職務の性質上、法改正や世情動向への対応から知識の更新が必要です。平時から自己研鑽を積まないと仕事にならないため、当然多くの税理士が日々研修や研修以外によって学びを深めています。
もちろん、研修の受講時間と税理士としての能力が必ずしも比例するとは限りません。非常に優秀で多忙であるが故に研修を36時間受講できなかった税理士もいるかと思います。
しかしながら、税理士は納税義務者からの信頼の上に成り立つ職業です。税理士試験合格後も税理士としての使命や社会的役割を忘れることなく、努力義務や法定義務に関わらず、平時から時間を見繕って研修を受けられるようにしておきたいものです。
<関連リンク>
税理士情報検索サイト
全国女性税理士連盟
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