持続化給付金の不正受給の甘い罠から税理士キャリアを守り抜く術とは
2023/11/01
昨今、持続化給付金の不正受給により逮捕者が続出しています。報道では税理士が関与したのではないか、と疑われている事例もあるようです。悪意のある人間は甘い言葉で税理士に近づき、利用しようと狙っています。
今回は持続化給付金の不正受給を例に挙げて、税理士がこのような不正に取り込まれないために、再度税理士法を確認して、税理士としてどのように業務に取り組み税理士としてのキャリアを守り抜けるかを解説させていただきます。
コンテンツ目次
持続化給付金の不正受給の背景
持続化給付金の不正受給の背景や現状、今後の対策について見てみましょう。
持続化給付金の不正受給が多い理由
持続化給付金はコロナ禍において少しでも早く経済的に困窮している国民を援助するための制度として、例外的に厳格な審査よりも給付金配布のスピード重視で展開されました。そのため、平時と異なる審査の簡素さを悪用した不正受給も増えてしまいました。
具体的には、非常に簡素化された申請書類(確定申告書・売上帳・本人確認書類)により、形式的な審査で迅速支給を目的としていたことが挙げられます。コロナ禍で確定申告の期限が延長されていたため修正申告も可能となっており、不正受給を悪用する者にとっては好都合でした。
持続化給付金の不正受給の手口
報道によれば、持続化給付金の不正受給を主導していたのは、反社会的勢力や詐欺グループなどが、組織的に一般の学生や主婦やサラリーマンなどを巧妙に窓口として利用し、多額の手数料を得る目的で行っていたようです。
手口の1つは、会社員、主婦、学生など本来確定申告が不要な人たちが、昨年(2019年)分の虚偽の確定申告書を修正提出後、今年(2020年)分の虚偽の売上帳を作成し持続化給付金の申請を行う単純なものです。この手口を使った不正受給が現在報道されている逮捕者が続出しているケースです。
その他にも、個人事業主や法人を使い昨年の売上を水増しした修正申告をして今年の売上を50%以下にするという手口や、今年の対象月の売上をごまかして売上帳を作成するという手口があるようです。
持続化給付金の不正受給に対する現状と今後の対策
報道によれば、持続化給付金の不正受給に対しては、持続化給付金の所管庁である中小企業庁と警察が連携を取り摘発に尽力しています。
9月より運営事務局が変わり、提出書類のチェックは厳密なものとなりました。不正受給者へは徹底検挙の方針が打ち出され、犯罪という意識が希薄で気軽に手を出していた層が自主返納の問合せに走る事態となっています。
連日の報道の中で逮捕者のニュースが散見されますが、今後も逮捕者が続くものと予想されます。
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税理士が不正に関与した場合の処分
もし仮に、税理士が不正に関与していた場合はどのような処分が下されるのでしょうか。
税理士が不正に関与したとされている事例
報道によれば、行政書士や税理士が持続化給付金の不正受給にさまざまな形で関与していることが疑われています。悪意のある人間からすれば、一般人の学生、主婦、サラリーマン、個人事業主、中小企業の経営者などを取り込むには、行政書士(申請書の作成代行)や税理士(確定申告書の作成代行)といった専門家の協力が不可欠です。
実際に、悪意のある人間の持続化給付金の不正受給を指導するセミナーにビデオ講師として参加したケースや、東京都内のキャバクラグループのキャバクラ嬢全員に不正受給に顧問税理士が関与していたケース、沖縄タイムズの記者による不正受給に税理士が関与していたとされるケースなどが伝えられています。
どのケースも、関与した税理士が逮捕起訴されたということは報道されておらず、現段階では疑念でしかありませんが、これ以外にも税理士と名乗る者の関与が報道されているケースも多々あります。
税理士が不正に関与した場合の処分
仮に税理士が不正に関与した場合には、刑法上の詐欺罪等への関与のほか、税理士法違反による懲戒処分を受ける可能性があります。
たとえば、顧客が不正受給に関する粉飾をしていて、税理士が粉飾に気づいたのに助言しなかった場合には、税理士法41条の3の助言義務違反となります。
さらに、税理士が不正受給に関わりアドバイスをしていた場合には、税理士法36条の脱税相談等の禁止違反や税理士法37条の信用失墜行為の禁止違反となります。
これらの税理士法違反をした場合には、税理士法44条に従って業務禁止や業務停止などの懲戒処分がなされます。過去には、補助金の不正受給への関与を理由に懲戒処分がなされた事例があります。
不正に対する税理士のとるべき対応
目先の利益など甘い誘惑に対して、税理士としてのキャリアを守るためにはどのような対応をとるべきでしょうか。
不正に関与すればさまざまなものを失うリスクがある
現在でも悪意のある人間は、持続化給付金の不正受給をはじめとした多種多様な補助金などの不正受給に税理士などの専門家を関与させようと、甘い誘惑を仕掛けてきています。
仮にこの誘惑に負けて不正に関与すれば、さまざまなものを失うリスクがあるということを頭に置いておきましょう。
家族や顧客など周囲の人への信頼、税理士資格、税理士や人としての信用、平穏だった日常など数え切れない大切なものを失うリスクがあるのです。
税理士としてのキャリアを守る
不正に対峙した場合には、毅然とした態度で臨みましょう。知らない人からの不審な誘いはもちろんのこと、よく知っている人や顧客から持ちかけられた話でも、自身が不正に近いグレーゾーンだと認識した場合には所轄官庁や税理士会、知り合いの税理士や弁護士をはじめとした専門家などに相談することをおすすめします。
自身も専門家であるという自負はあるでしょうが、判断が難しいケースは少なくありません。そういった事態においては、複数の判断を聞いた上で結論を出す方が冷静な判断を下せるのではないでしょうか。
税理士としてのキャリアを守れるのは自分自身しかいません。自身だけのためではなく、家族や顧客など周囲にいる大切な人たちのためにも、自身の税理士としてのキャリアを守る行動を心がけましょう。
これまで、持続化給付金の不正受給に関して、その背景や現状、税理士の関与が疑われている具体的事例を例に挙げ、コロナ禍において税理士としてどのような対応をすればよいのかについてご紹介させていただきました。
目先の利益を優先して不正を働けば、社会人としても税理士としても失うものはとても大きいです。たとえ自身で気をつけていたとしても、悪い人は専門家を利用しようとしてあの手この手で近づいてきます。明確に不正と判断できないグレーゾーンのような案件に相対したときは、自己の判断のみに頼らず国税庁や知人の税理士に相談して自身でキャリアを守っていきましょう。
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