税理士の資格取得を諦めても大丈夫!残るスキルとキャリアパス
税理士試験は、全11科目のうち、5科目を合格して、更に実務経験を積んで初めて税理士として登録することができる、きわめてハードルの高い難関資格です。
どの科目についても合格率がおよそ10~30%というレベルの難易度で、1つの科目に合格するだけでも大変です。5科目合格以外にも資格を取得する方法はありますが、科目制度を活用して資格取得に最短でも2年、平均5年から10年かかる、と言われています。
試験勉強の結果、目標どおりに税理士登録を果たす人がいる一方で、税理士資格の取得を途中で諦める人が多くいるのが実情です。
この記事では、税理士資格の取得を諦めた場合のキャリアパスについて解説します。
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コンテンツ目次
税理士試験の受験を諦める主な理由
税理士試験は合格率が低く、難易度が高い試験です。
令和5年度(2023年)の税理士試験結果を科目別に見てみると、どの科目も合格を勝ち取るのは難しいことがわかります。
科目 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
---|---|---|---|
簿記論 | 16,093 | 2,794 | 17.4 |
財務諸表論 | 13,260 | 3,726 | 28.1 |
所得税法 | 1,202 | 166 | 13.8 |
法人税法 | 3,550 | 497 | 14.0 |
相続税法 | 2,428 | 282 | 11.6 |
酒税法 | 463 | 59 | 12.7 |
国税徴収法 | 1,646 | 228 | 13.9 |
住民税 | 462 | 68 | 14.7 |
事業税 | 250 | 41 | 16.4 |
固定資産税 | 846 | 146 | 17.3 |
合計 | 46,956 | 8,809 | 18.8 |
参考:国税庁「令和5年度(第73回)税理士試験結果表(科目別)」
税理士試験受験者の多くは、税理士事務所などに勤務し、実務経験を積みながら税理士資格の取得を目指します。勤務時間以外の時間を受験勉強に充てなければならず、勉強時間の確保が課題になりますが、実務経験を積まずに5科目合格だけを目指すと、いざ税理士になった時に、税理士登録後のキャリア形成が難しいという側面があり、働きながら受験勉強をする人が多いと考えられます。
また、税理士試験向けの受験予備校や専門学校、通信教育には多額の費用がかかります。
試験勉強には努力に加えて、プライベートな時間を捨てる忍耐とお金も必要、といえるかもしれません。
税理士資格は、その専門性の高さ、社会的ニーズの高さが魅力的です。お金や時間、努力を投資しても税理士になる価値はあるでしょう。しかし、現実的には、合格率の低い難関試験、何年もかかる受験勉強にモチベーションが落ちてしまい、資格取得を諦めてしまう人も多くいます。
他にも、経済的な事情や健康上の問題など様々な事情により受験勉強を継続することができなくなる場合もあるでしょう。
そこで、税理士の資格取得を諦めた場合、どんなスキルや経験が残るのか、どんな選択肢があるのかを考えてみたいと思います。
税理士を断念してわかる、受験勉強や実務経験から得たスキル
税理士試験に向けて必死に勉強しているときには、合格することばかりに思考が集中しているため、受験勉強、実務経験から得られたスキルのことなどを意識することはないでしょう。
理由に関わらず、税理士の資格取得を断念すると「これまでの努力がすべて水のあわ、これまで多額のお金と時間を犠牲にしてきたのに無駄にしてしまった」と、焦燥感や自責の念に苛まれます。
しかし冷静に考えてみると、それまでの受験勉強や実務経験から得たものは、他の仕事では経験しないものばかりではありませんか。他の業種では得難い経験と知識を身に付けてきたことに気が付く時が来るでしょう。
例えば、日常の起票一つにしても、簿記の知識がなければ非常に難しいことです。
使用する勘定科目の判断、経費性の判断、適正な期間損益計算の考えに基づいた処理、決算処理や申告・納税など、会計・税務に関する知識を身に付けています。日々、実務で取り扱ってきたその1つ1つの業務が、専門的かつ社会的ニーズの高いものであるため、他の業種・分野に転職しても重宝される人材になり得るのです。
税理士資格の有無にかかわらず、身に付けた税務・会計に関する知識や経験、スキルは必ず活かせます。
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税理士の資格取得を断念した後のキャリアパスの例
税理士の資格取得を断念しても、様々な業種・分野で活躍できます。税理士の資格取得を断念した後のキャリアパスについて、どんな選択肢があるのかをご紹介します。
企業の経理部
一般的な税理士事務所に勤務すると、個人事業主や中小企業の会計・税務に関する業務を行ったり、アドバイスを提供したりする仕事に従事するかと思います。
前述のとおり、会計・税務に対する知識や経験は、業種や規模に関係なくバックオフィス業務として社会的ニーズの高いものです。一般企業における経理職は、業種を問わず、企業の存続繁栄に重要なポジションであることは言うまでもありません。
企業の経理部スタッフ全てが会計・税務に関して精通しているわけではありませんので、税理士事務所での知識・経験のある人材は重宝されます。中途転職して数か月後に経理部の主任・課長級の役職に昇進したという話も聞くほどです。一般的に転職するにはハードルが高い中高年世代でも経理職におけるニーズは高いと言えるでしょう。
簿記学校の講師
簿記学校の中には税理士の資格取得を断念された方を積極的に採用されているところもあるようです。
税理士試験の試験科目のうち、合格された科目の担当講師として、直接受験生に授業を行い、指導している人や、通信教育の講師として指導している人もいます。自身が受験勉強を経験しているため、受験生の気持ちに寄り添った指導者として活躍できるかもしれません。
また、資格学校には税理士試験コースだけでなく、他の学習コースもあります。
簿記や税金に関する知識は、ビジネスに必須と言っても過言ではなく、それを教える講師のニーズも高いといえるでしょう。
税理士試験の合格科目を保有している場合には、知識の証明として利用できます。転職活動時には有利でしょう。
新たな業界で自営業
もともと家族が営んでいた事業を引き継ぐ人もいますが、自分で新しい事業に挑戦する人もいます。
自営業はすべての業務を自分で行うことになります。個人事業主であっても法人経営であっても、自分で行う営業や経営は非常に大変だと聞きます。
しかし、税理士事務所において営業や経営を見聞きしてきた経験や、クライアントに対して提供してきたサービスを自分の経営に活かすことができます。
日常の起票から損益計算、資産管理、決算整理や税務申告にわたる一連の業務ができれば安心です。加えて節税対策や税務調査時における調査官の対応までの経験があれば、困ることはないでしょう。
税理士事務所に依頼すると報酬が何十万円と掛かりますから、自分で出来れば大きなコストカットに繋がります。
会計事務所・税理士事務所で勤務
資格取得を断念しても、そのまま会計事務所・税理士事務所で勤務を続ける選択もあります。他の事務所に転職して環境を変えることもできます。
会計業界では人手不足が問題となっており、人材確保に頭を悩ませています。新人を一から育てるには手間がかかるため、既に知識・経験を積んだ人材を探しています。科目合格がある場合には未経験でも採用される可能性があるでしょう。
税理士補助の仕事とは
税理士事務所には、税理士補助という働き方があります。どのようなものか、具体的に見ていきます。
税理士補助とは
税理士補助は、特段資格があるものではありませんが、税理士をサポートする仕事です。独占業務である税理士を補助するため、税理士の監督のもとで業務を行うことになっています。
具体的な仕事内容は、記帳代行や巡回監査、決算業務や税務申告業務などが該当します。会計事務所の総務・事務、人事といった業務のみを行う事務職員とは異なります。数十社のクライアントを担当し、各社の経営に携わるため、責任をもって業務に取り組む必要があります。
税理士補助の年収事情
税理士事務所の所在する場所や、規模、専門にしている業務内容、本人の経験などにもよりますが、おおむね400万円~500万円が相場ではないかと考えられます。
また、英語が堪能である人は国際税務を手掛けている事務所、資産税が得意な人は相続案件のみを多くこなしている事務所など、特化型の事務所においては高い年収を得られる可能性もあるでしょう。
税理士補助のキャリアパス
税理士補助には、税理士の資格取得を目指す人が多くいます。
しかし、会計事務所側からすると、資格取得後に辞めてしまうリスクがあるため、資格取得を目指していない人材が重宝されるケースも考えられます。
また、勤務以外のオフの時間を受験勉強に使わずに済みますので、自由な時間を得られます。その時間を利用して他のスキルを身に付けることも可能です。
税理士を目指した経験は、他の資格に活かせないか?
税理士試験で勉強した内容を他の資格取得に活かし、キャリアアップすることも可能です。
例えば、ビジネスに役立つ資格として人気の高い中小企業診断士やビジネス会計検定、ファイナンシャルプランナーなどが挙げられます。
また、社会保険労務士なども、給与計算などで労働・社会保険に触れている経験から有利に進められるのではないでしょうか。自分の可能性を広げるチャンスです。
税理士試験の学習で身に付けたスキルを活かして活躍しよう
受験勉強には多額のお金と膨大な時間、労力を費やすことになります。税理士資格に執着する気持ちが強くなるのも当然です。
しかし、個々の事情で資格取得を諦めることになったとしても、新たなキャリアパスは構築できます。
税理士試験で学んだこと、税理士事務所の業務を通じて経験したことの一つ一つが専門的で役に立つことばかりです。他の業界でも十分に通用するスキルで、汎用性が高いものだということをおわかりいただけたのではないでしょうか。
資格取得を断念し、これからの人生プランを模索されている方には、ご自身の知識と経験に自信を持ってキャリアに活用していただきたいと思います。
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投稿者情報
- 現役の税理士として10年以上、会計事務所に勤務しているかたわら、会計・税務・事業承継・転職活動などの記事を得意として執筆活動を5年以上しています。実体験をもとにしたリアルな記事を執筆することで、皆さんに親近感をもって読んでいただけるように心がけています。
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