決算書分析とは?目的・分析ポイントを解説
2023/11/01
決算書は、会社経営や事業運営において非常に重要な役割を果たします。この記事では、決算書の基本情報や、決算書分析を行う際のポイントなどを解説していきます。決算書分析のスキルを磨いて、ベストなキャリアアップ方法や働く環境についても考えていきましょう。
コンテンツ目次
決算書とは?
決算書とは、会社の利益や損失、財政状態を報告するための書類です。そもそも「決算書」という名の書類があるわけではなく、「貸借対照表」、「損益計算書」、「株主資本等変動計算書」、「キャッシュフロー計算書」、「個別注記表」などの「財務諸表」のことを総称した書類を「決算書」といいます。
決算書にあたる、それぞれの財務諸表についての目的や見方を解説します。
賃貸対照表
「貸借対照表」とは、法人や個人事業主の財政状態を表す書類です。
よくあるものとして、左側と右側が対照の表になっており、左側に資産の運用形態を示す「資産の部」、右側に資本の調達源泉となる「負債の部」および「純資産の部」が表示されています。
左側の「資産の部」と、右側の「負債の部」と「純資産の部」の合計額は一致しており、この性質上、賃貸対照表のことを別名「バランスシート」(略して「B/S」)と呼びます。
賃貸対照表は、「会社の資産がどれくらいか」、「資産はどう運用されているのか」、「負債と純資産のバランス」を確認することができるため、財政の健全性を判断するための重要な書類となります。
損益計算書
「損益計算書」とは、法人や個人事業主の1年間の経営成績を表す書類です。英語でいうと、「profit and loss statement」(profitは利益、lossは損失、statementは計算書の意味)で、略して「P/L」と呼びます。
損益計算書では、利益を「売上総利益」、「営業利益」、「経常利益」、「税引前当期純利益」、「当期純利益」の5つにわけて表示します。これにより、「どれくらいの利益があるのか」だけでなく、利益を出すまでのプロセス(広告費や人件費のようなコストのかけ方等)、または、「どれくらいの損失を出したのか」といったことを把握できます。
損益計算書は、事業運営において、どの程度のコストをかけるべきなのか、反対にどれ程のコストを削減すべきなのかを判断するために重要となる書類です。
株主資本等変動計算書
「株主資本等変動計算書」とは、貸借対照表での純資産の項目です。
一定の会計期間内で変動する額のうち、主に、株主資本のそれぞれの項目がなぜ変動したのかを把握するためのものです。
現在の法律では、株主総会や取締会で決定されれば、剰余金をいつでも配当できるようになっており、株式資本の計数を変動させられるようになっています。貸借対照表や損益計算書類だけでは、この流れが把握しにくいため、株主資本等変動計算書が作られるようになったのです。すべての会社で作成の義務がある書類のひとつとなっています。
ちなみに、合資会社や合同会社では株主資本等変動計算書のことを、「社員資本等変動計算書」と呼びます。
キャッシュフロー計算書
キャッシュフロー計算書とは、現金の流れ(キャッシュフロー)を表した計算書です。英語でいうと「cash flow」で、略して「C/F」と呼びます。
キャッシュフロー決算書では、「どこに現金を使ったのか」、「どのように現金を増やしたのか」が、わかるような書類となっています。
上述の損益計算書と似た印象を受けるかもしれませんが、損益計算書では現金の増減を表しているわけではないため、キャッシュフロー計算書で現金の増減を表しているのです。
個別注記表
個別注記表とは、重要な会計方針に関する注記や、賃借対照表や損益計算書などの決算書に記載された注記をまとめた書類のことです。個別注記表では、株主や関係者に対しても決算書の中身を適切に読み取れるように、企業情報を集約しています。
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決算書分析とは?
決算書を読み取る財務分析は、会社の状況を把握し、経営判断を正しく行う上で、非常に重要な業務となります。何年分かの決算書を見ることで、会社の業績の推移がわかりますし、決算書を同業他社と比較することで、それぞれの強みや弱みなどが把握できるようになります。
決算分析をするためにも、まずは以下に紹介する5つの分析方法を理解しましょう。
収益性分析
収益性分析とは、その名の通り企業の利益についての分析です。単純な利益額ではなく、利益率に注目します。
また、収益性分析は「資本収益性」と「取引収益性」の2つの視点で見ていきます。
資本収益性では、総資本、自己資本、利益の比率を見て、利益を上げるために資本を効率良く利用できているのかを分析します。取引収益性では、売上と利益・費用の関係を見て、効率良く利益を上げられているかどうかを分析します。
生産性分析
生産性分析とは、「ヒト」「モノ」「カネ」を効率良く利用し、企業の成長につなげられているかを判断するための分析です。
投じた「ヒト」「モノ」「カネ」対して、どの程度の成果が出ているかを確認します。
生産性分析では、「労働生産性」や「資本生産性」「労働分配率」が重要な指標となります。
安全性分析
安全性分析とは、企業の長期と短期の支払い能力を確認するための分析です。企業の体力、財務の健全性を判断するためのものです。安全性分析では、「自己資本比率」や「流動比率」「当座比率」「固定比率」が重要な指標となります。
成長性分析
成長性分析とは、売上、営業利益、経常利益が伸びているかを見ることです。企業の特質、将来性を判断するための分析です。成長性分析では、「売上高増加率」「利益増加率」「総資産増加率」「純資産増加率」「従業員増加率」「一株当たり当期純利益」が重要な指標となります。
活動性分析
活動性分析とは、投じた資本を効率的に利用して売上を伸ばせているかを判断するための分析です。
活動性分析では、「総資本回転率」や「棚卸資産回転率」「固定資産回転率」が重要な指標となります。
決算書分析をする理由
決算書分析をする理由は、その人の立場によって異なります。主な立場として「経営者」「株主・投資家」「銀行」の3つが挙げられます。それ以外に、企業の経理担当者が決算書分析を行うケースもあります。それぞれの立場において、決算書分析をする理由や意義を確認していきましょう。
経営者が決算書分析をする理由
経営者が自社の決算書分析を行うのは、現在の経営状態、資金繰りについて把握し、事業を拡大するのか縮小するのかといった経営戦略や事業の方向性を決定するための判断材料にするためです。
株主・投資家が決算書分析をする理由
投資家が決算書分析を行うのは、会社の経営状態を把握して、その会社へ投資すべきかどうかを判断するためです。
銀行が決算書分析をする理由
銀行の人が決算書分析を行う理由は、その会社に融資すべきかどうか、融資したとして返済能力はあるのか、金利などの融資の条件が適切どうかを判断するためです。
企業の経理担当者が決算書分析をする理由
企業の経理担当者は、お金を日々管理しています。仕入れ、販売、経費の支払いといったすべてのお金の流れを正確に記録し管理することが求められます。そして、経理が記録し、可視化した数値をもとに、決算書を作成します。
日々のお金のやりとりを記録し、熟知している経理担当者であれば、決算書分析を行う際に細かな気づきが得られる可能性もあります。また、決算書の作成を経理担当者が担う場合もあるので、経理担当者が決算書分析をすることは、非常に意義があります。さらに、経理のプロとして、企業の立場だけでなく、それぞれの立場を踏まえた観点から、分析するようにしていくと、スキルアップにつながります。
以上ご紹介したように、それぞれの立場で、企業の経営や事業の状態を把握し、ベストな判断と選択を行うために決算書分析を行うのです。
決算書分析で重要な「貸借対照表」と「損益計算書」の見方
決算書分析において特に重要となる書類は、「貸借対照表」と「損益計算書」です。それぞれの見方について解説します。
貸借対照表の見方
貸借対照表(別名・バランスシート)とは、ある一定の時点で会社が持っている「資産」「負債」「純資産」の項目と金額が記入された財務諸表のことです。会社に関わるお金の流れのうち、ストックの部分を示します。
損益計算書の見方
損益計算書(「profit and loss statement」略して「P/L」)とは、会社の特定の期間における収益、費用の項目と金額が記された財務諸表です。会社に関わるお金の流れのうち、「収益」と「費用」などの流れを表します。
決算書分析で企業経営をチェックする3つのポイント
決算書分析でポイントとなるのは「推移」です。ひとつの科目に着目して、対象の推移を見ることや、ひとつの指標に着目してその推移を見ることで分析していきます。企業経営の良し悪しをチェックする3つのポイントを解説します。
収益性(儲かっているか)のポイント
企業の収益性を見るのに、ポイントとなっているのは売上高利益率(粗利率)です。利益の額を見るのではなくて、比率を見るのがポイントとなっています。会社の資本を使って事業を行い、利益を出していくことで、会社の事業運営は継続されていますが、収益性分析では、活用した資本が効率良く利益を出せているのかを確認します。
売上高総利益率(粗利率)
「売上高から売上原価を差し引いた売上総利益」が粗利となります。売上高総利益率は、売上高に対する売上総利益の比率です。下記の計算式で算出されます。
粗利率(%)=売上高総利益÷売上高×100
この数値が、企業の利益率の指標となります。
売上高営業利益率
「売上高に対し、営業利益がどれくらい残っているか」を表した数値が売上高営業利益率です。この比率が高いほど効率性が良い状態ということになります。売上が高くてもこの数値が低い場合は、利益が残っていないということになってしまいます。売上高営業利益は、下記の計算式で算出されます。
売上高営業利益率(%)=営業利益÷売上高×100
この数値が、販売や管理といった営業の効率性を判断するための指標となります。
安全性(倒産しないか)のポイント
安全性分析とは、その企業にどれだけ支払い能力があるのかを見極めるための分析です。この分析により、その会社の経営状態の安全性(倒産しないかどうか)が分かります。安全性分析のポイントは、流動比率と自己資本比率を指標として分析することです。ほかにもいくつかの指標が使われますが、ポイントとしてこの2つの指標を見ていきます。
流動比率
流動比率とは、企業が1年以内に得ることができる現預金の額を表す流動資産と、1年以内に支払わなければならない現預金の額を表す流動負債を比較したものです。流動比率が低いということは、短期的な支払いが多いということです。そのため、財務的な安全性は低いと判断されます。流動比率は、下記の計算式で算出されます。
流動比率(%)=流動資産÷流動負債×100
自己資本比率
自己資本比率とは、自己資本と他人資本を足した額に対する自己資本の比率を表す指標です。会社の資金の調達先が自己資本なのか、銀行からの融資といった他人資本であるかをチェックします。自己資本比率が低いと、他人資本に影響されることになり、経営が不安定ということになります。下記の計算式で算出されます。
自己資本比率(%)=自己資本÷(自己資本+他人資本)×100
これらの数値が、安全性を判断するための指標となります。
成長性(成長しているか)のポイント
成長性を確認するには、「増収率」「増益率」「売上高研究開発比率」を確認しましょう。
増収率(売上高伸び率)
当期の売上高が、前期と比較し、どれだけ伸びたかをチェックする指標が増収率です。単年度だけでなく、過去数年分の伸び率も確認し、売上高の推移を見ていくのがポイントです。下記の計算式で算出されます。
増収率(%)=(当期売上高-前期売上高)÷前期売上高×100
前期の売上高に対し、当期が減ってしまった場合は、「減収率」と呼びます。
増益率(経常利益伸び率)
当期の経常利益が、前期と比較し、どれだけ伸びたかをチェックする指標が増益率です。増収率と同じく、増加するのが良いとされています。通常は、売上高が増えると増収率は上がり、経常利益が増えると増益率が上がります。下記の計算式で算出されます。
増益率(%)=(当期経常利益-前期経常利益)÷前期経常利益×100
増収率と増益率を組み合わせて見ることが、その企業が成長しているかどうかを判断するポイントとなります。
売上高研究開発比率
売上高研究開発比率とは、売上高に占める研究開発費の割合です。売上高に対し、どの程度の研究開発費を投資したかを見ることで、その企業の成長を予測できます。下記の計算式で算出されます。
売上高研究開発比率(%)=研究開発費÷売上高×100
会計業界で転職するには
ここまで見てきたように、会計業務は専門的な知識と経験が求められる業務です。知識や経験を積むことで、確実にキャリアアップにつながる仕事でもあります。キャリアアップを続けていくためには、ただがむしゃらに目の前の業務に取り組むだけでなく、現在の職場が長く働き続けられる環境かどうかも見極めなくてはなりません。
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その一環として、会計業界でお役に立つ情報をお届けするために10年以上記事を書いています。是非、会計業界で働く人が楽しく、知識を得られるような情報をお伝えできればと思います。
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