税理士の独立開業を成功させるには?今から準備しておくべきこと
2023/11/01
税理士試験合格後は、まずは勤務税理士として働く人が多いのではないでしょうか。勤務税理士として働いて経験を積んだのち、独立開業を意識するという段階を踏んでステップアップを考えているケースが多いようです。しかし、計画をしっかりと立てずに独立開業をしようとしてもうまくいかない可能性が高くなります。
そこで、独立開業した後の成功確率を上げるために、開業税理士となる前に知っておいた方がいいことを解説します。
ひと昔のように、独立開業すれば仕事がどんどん舞い込んでくるというような時代ではなくなっていますので、注意しておきましょう。
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コンテンツ目次
税理士事務所を独立開業するまでの流れ
税理士事務所を独立開業するまでの流れは、以下のようになります。
実務経験を積む
税理士としての自身の事業を開始する前に、まずは税務の実務経験を積むことが必要です。税務処理や会計の基礎知識を習得し、具体的な業務経験を持つことで、将来的に顧客から信頼を得られます。大企業や中小企業をクライアントとした経験、または他の税理士事務所での実習など、実践的な知識と経験を豊富に持つことが、事業成功の一歩となります。
税理士登録申請をする
次に、税理士としての登録を行います。これは、税理士試験に合格した後、適切な申請を行い、所定の登録料を支払うことで可能となります。税理士事務所を開設することを登録申請することで、クライアントからの信頼性が向上し、業務範囲も広がります。
開業資金を貯める
事業を始めるためには、適切な開業資金が必要です。オフィススペースのレンタル、オフィス機器の購入、ソフトウェアライセンスの取得、広告費用、初期の人件費など、開業にかかるコストを見積もり、計画的に資金を蓄積していきましょう。また、開業後の収入が安定するまでの生活費も考慮に入れることが重要です。
開業に向けた準備を進める
開業資金を準備したら、具体的な事業計画を立て、必要な設備を揃え、人材を確保するなど、開業に向けた準備を進めます。さらに、事業の位置付けや対象とする顧客層を明確にし、適切なマーケティング戦略を策定することも重要です。その上で、税理士としてのサービスを提供するためのウェブサイトの開設や、広告活動の開始などを計画します。開業の準備は丁寧に、かつ計画的に進めていきましょう。
税理士が独立開業するうえでかかる費用
税理士が独立開業するうえでは、以下のような費用がかかります。
税理士登録費用と会費
税理士として登録するためには次の費用が必要です。
(1) 登録免許税(6万円)
税理士としての登録を進めるためには、まず6万円の登録免許税を支払う必要があります。この税金は、国税収納機関(日本銀行、国税を収納する代理店、郵便局など)にて品川税務署宛てに納め、その領収証書を登録申請書に添付します。
(2)登録手数料(5万円)
税理士としての登録申請を行う場合、日本税理士会連合会の規則に従い、5万円の登録手数料を支払う必要があります。この手数料は、登録申請書を提出する際、税理士会が指定する方法(税理士会受付時の現金、郵便振替等)で納付することとなります。
事務所の賃貸料その他
独立開業に際して、事務所の賃料その他を支払う必要があります。
税理士(ただし、税理士法人の従業員と所属税理士は除く)と税理士法人は、税理士の業務を行うために事務所を設置する義務があります。したがって、事務所を借りずに開業税理士となることはできません。自身で業務を行う税理士が設ける事務所が「税理士事務所」と呼ばれます。税理士業務のための事務所とは、税理士の業務を担う中心地を指し、その中心地がどこであるかは、クライアント等へ示す連絡先等、外部に公開する情報による客観的な事実により判断されます。さらに、税理士事務所は1人1事務所に制限されていますが、これは税理士の業務を一つの場所に限定し、法的な関係性を明確にするためです。
税務・会計ソフト代
税務・会計ソフトは、税理士事務所において欠かせないものです。近年の税務・会計業務は、電子化・IT化が進んでいます。2023年10月からは、インボイス制度が開始となることもあって、税理士事務所でも電子化・IT化への対応が求められています。
その他(名刺・広告・ロゴ・ウェブサイトなど)
その他、税理士は士業と呼ばれることもあって、個人での業務も多くなります。開業した場合でも、自分自身が事務所の顔となって営業活動などをしなければなりません。当然、マーケティング活動も重要です。したがって、名刺・広告・ロゴ・ウェブサイトなどを作成する必要があります。作成にも費用がかかるため、開業時には準備しておかなければなりません。
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開業税理士と所属税理士の年収
ここからは、開業税理士と所属税理士の年収を比較しながら明らかにしていきます。開業税理士と所属税理士では、その収入が事業収入と給与収入であるため単純に比較するのは難しいです。開業税理士の収入は事業収入であるため、会社の収入ということになります。会社の売上から差し引かれる事業経費の一つとして、開業税理士には報酬が役員報酬として支払われます。役員報酬は、開業税理士自身で決定することが可能です。一方、所属税理士の収入は、会社の売上から差し引かれる事業経費の一つとして、所属税理士には報酬が給与として支払われます。給与は、所属税理士自身で決定できるわけではなく、会社のルールで決まっているものです。これを前提したうえで、開業税理士と所属税理士の年収について比較していきます。
所属税理士の平均年収
厚生労働省が毎年公開している「令和4年度賃金賃構造基本統計調査」によれば、税理士(所属税理士)の平均年収は、約747万円(固定給与額×12か月+年間賞与や特別手当額を含む)であることが示されています。ただし、このデータには、公認会計士の年収も含まれているため、税理士だけの年収を示しているわけではないことに注意してください。「公認会計士」と「税理士」のデータが混在しているこの調査には、職種ごとの割合や勤め先の情報等、詳細な分析要素が含まれておらず、そのため、各職種の実際の年収状況を理解する手がかりにはなりますが、特定することはできません。公認会計士と税理士は、それぞれの専門性を持つ異なる職種であるため、この一括りのデータの有用性については細心の注意を払う必要があります。
開業税理士の平均年収
開業税理士の平均年収については、3,000万円程度と言われていますが、その金額には根拠がありません。少し古いデータとなりますが、平成26年4月に、日本税理士会連合会(日税連)が、「第6回税理士実態調査」の集計結果を公開しました。これは、日本で活動する税理士からの登録情報に基づいており、回答数は33,767件で、回答率は43.8%でした。日税連によるこの調査では、税理士の年収は、「開業税理士」、「補助税理士」、「社員税理士」の3つのカテゴリに分けて詳細に分析されています。その結果は以下の通りです。
回答者数 | 平均年収 | |
---|---|---|
補助税理士 | 4,163名 | 597万円 |
開業税理士 | 23,712名 | 744万円 |
社員税理士 | 3,459名 | 886万円 |
計 | 31,334名 | 740万円 |
税理士が独立開業するメリットとデメリット
税理士が独立開業するメリットとデメリットとしては次のような点が挙げられます。
メリット: 自由度が高い、収入UPが見込める
独立開業する最大の魅力は、自由度の高さにあります。自身のビジョンに従ってビジネスを展開し、自分自身が決定する働き方により、個々のクライアントとの関係性を深めることが可能となります。また、開業地点や営業時間、提供サービスの内容まで、全て自分で決定することができます。
さらに、自分の力でビジネスを拡大することで、収入の向上も見込むことができます。雇われの税理士と異なり、自分が直接収益を生み出すため、成果に応じて収入が増える可能性があります。ただし、それは成功した場合の話であり、必ずしもすべての開業税理士が高収入を得られるわけではないことを理解しておく必要があります。
デメリット: 責任が重くなる、自分で集客しなければならない
一方、独立開業のデメリットも確かに存在します。開業すると、一人で全ての業務をこなさなければならないことが多く、その責任は非常に重いものとなります。顧客からの信頼を得るためには、専門的なスキルはもちろん、ビジネスマネジメントや顧客対応にも高い能力が求められます。
また、自分で新規のクライアントを獲得し、維持する必要があります。これは、継続的にマーケティング活動を行い、関係性を築くことを意味します。初期の集客は特に困難な場合が多く、これには時間と労力を必要とします。そのため、事前にリスク管理とビジネスプランの策定をしっかりと行うことが、開業成功の鍵となるでしょう。
税理士事務所を開業する前にしておくべきこと
税理士事務所を開業する前に、以下の点については十分検討して準備しておくことが必要です。
依頼を受ける専門分野を決める
税理士事務所を開業する前に、まず取り扱う業務の専門分野を明確に定めましょう。税理士業務は幅広い範囲にわたりますが、個人の所得税対策から企業の税務申告、会計業務まで全てを手掛けるのは難しいです。自分の得意分野や、市場におけるニーズを見極めて、自身が対応できる領域を絞り込むことが求められます。これにより、自分自身のブランドを形成し、顧客に対して高品質なサービスを提供することが可能となります。
顧客獲得のための営業力をつける
次に、税理士事務所の成功には営業力が不可欠です。独立開業しても顧客がいなければ、事業は成り立ちません。クライアントに自身のサービスを適切に説明し、彼らのニーズに対応することで信頼関係を築くためのスキルを身につけることが重要です。また、営業力をつけるには、ネットワーキングやプレゼンテーションスキルの向上など、人間関係の構築に必要な能力も必要となります。
ITツールやSNSの活用
最後に、現代のビジネス環境ではITツールやSNSの活用は不可欠です。効率的な業務運営のためのITツールの活用はもちろん、SNSを用いたマーケティングも重要な手段となっています。クライアントとのコミュニケーションを図るツールとして、また新規顧客の獲得に繋げるためのプラットフォームとして、SNSを活用することが求められます。また、ウェブサイトやブログを通じての情報発信も、自身の知識とスキルを証明し、顧客からの信頼を得るために有効な手段となります。これらのツールを使いこなすスキルを身につけておくことが開業の成功に繋がります。
税理士の専門性にはどんなものがあるのか
税理士事務所を開業する場合には、以下のような専門性を身に着けているかどうかが重要です。これは、税理士事務所の収入に直結します。これらの業務のどの分野を特徴とする税理士事務所にするのかを明確にすることが大切です。
対法人業務
対法人業務は、税理士の専門性の一つです。これは、企業の税務申告、財務諸表の作成、税金の最適化策の提案など、企業の税務に関する全般的な支援を指します。税理士は企業の財務状況を深く理解し、適切な税制度の適用や節税策を提案します。また、税務調査への対応支援もこの範囲に含まれます。
対個人業務
対個人業務は、個々のクライアントのための個人所得税や贈与税、相続税等の申告業務を行います。また、個人事業主の場合、青色申告の適用などのアドバイスを行うこともあります。税理士は個々の顧客の生活や事業に最適な税務対策を提案し、それらを実行に移す支援を行います。
相続税法
相続税法は税理士の専門分野の一つで、特に深い知識と経験が求められます。これは遺産の分割や遺留分の確定、相続税の計算・申告等、相続に関わる全ての業務を含みます。また、適切な相続計画を立て、節税策を提案することも重要な役割となります。
組織再編
企業の組織再編は、企業の成長や戦略的な取り組みにとって重要な手段であり、これに関与するためには高度な専門性が必要です。税理士は会社分割、統合、株式交換などの業務を支援し、それらが税法に適合するように助言します。これは企業の経営者や株主の利益を最大化するための重要な業務となります。
連結会計・連結納税
多国籍企業や大企業など、グループ企業が対象となる連結会計・連結納税も、税理士の専門領域です。これは、グループ全体としての経済的な状況を反映するための会計処理や、グループ全体としての税負担を最適化するための納税方法を指導します。また、各国の税制や国際税務に関する深い知識も求められます。
まずは、独立するスキルを身に付けて選択肢を広げておく
税理士が独立開業しても成功するのは簡単ではありません。
独立開業をする場合でも、税理士としてどんな仕事をしたいのか、明確なイメージを描いておくことが大切です。そのイメージに向けて、より専門性の高いスキルを身に着けておくことができれば、独立開業したあとも、税理士として成功することができるでしょう。
開業前にしっかりとどの分野を特徴とするかを決めて、専門性を高めていくことが重要です。そのためには、勤務税理士としてどのような経験を積むのかしっかりと計画を立てること、また効率的に目的とした経験を積めるであろう転職先を探し出すことが大切です。もし、企業選定に不安があるようでしたら会計業界を専門とした転職サイトや転職エージェントを活用することをお勧めします。
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投稿者情報
- 現役の税理士として10年以上、会計事務所に勤務しているかたわら、会計・税務・事業承継・転職活動などの記事を得意として執筆活動を5年以上しています。実体験をもとにしたリアルな記事を執筆することで、皆さんに親近感をもって読んでいただけるように心がけています。
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