IPO準備企業の経理の重要性とは?求められる役割と仕事内容
2023/11/01
IPO(Initial Public Offering)とは新規株式公開のことです。証券取引所に株を公開していない企業が、誰でも買い付けができるように公開することを言います。
IPO準備企業とはIPOを目指している企業のことを指し、上場するためには証券取引所の上場審査をクリアしていかなくてはならず、そのためには大きな労力と時間、コストを必要とします。
経理職の求人情報の中で、「上場をめざしています!」「上場準備中のため急募」などのキーワードを見たことがあるのではないでしょうか。
IPO準備企業で経理は重要なポジションであり、経理の正確で適切な仕事が求められます。
IPO準備企業における経理は管理業務の中でも特に重要だと言われています。通常業務を行いながらIPO準備についての業務も行わなくてはならないため、経理部門の体制が構築できていないと上場準備は進める事ができないと言っても大げさではないのです。
そのため、IPO準備企業は適切な人材を確保するために求人を出すことが多いのです。
IPOについては大凡理解されている人も多いと思いますが、IPO準備中の経理の仕事は通常時と何が違うのか、どのような体制が必要なのかなど上場準備中に経理の仕事について解説します。
また、IPOを経験したことによって、経理のキャリアパスがどのように描かれるかについてもお伝えしますので、ぜひ参考にしてください
コンテンツ目次
1.IPO、IPO準備とは
IPOとは、Initial Public Offeringの略称で、新規株式公開を意味する言葉です。IPOを行うと、株式市場において会社の株式が取引可能となります。
多くの投資家によって会社の株式が取引可能となるため、IPOをした会社の動静は多くの投資家の関心事となります。しかし、投資家は直接的にその会社の状況を知ることはできません。そのため、IPOを行った企業は、会社の財政状態と経営成績を投資家向けに開示することが義務付けられています。
そのため、IPOを目指すIPO準備企業は、会社の財政状態と経営成績を投資家向けに開示する準備をしなければなりません。投資家が最も関心を持っているのは、会社の財務情報です。つまり、会社のお金の動きに投資家は関心を持っています。
企業は、投資家の関心にあった情報を開示する必要があります。そうしなければ、投資家からの関心を集めることができず、必要な資金を調達したりすることが難しくなり、会社が上場した意味がなくなります。
したがって、IPOの準備を行っている企業は、投資家に対して適切な情報を適切なタイミングで開示できるように準備しなければなりません。
2.IPOのメリット・デメリットとは
IPOを行うことは、会社に対してどのようなメリットとデメリットをもたらすのでしょうか。この節では、IPOのメリット・デメリットについて、日本の証券取引所が公表している新規上場ガイドに基づいて、説明していきましょう。
(1)資金調達の円滑化・多様化
上場会社は、取引所市場における高い流動性を背景に発行市場において公募による時価発行 増資、新株予約権・新株予約権付社債の発行等、直接金融の道が開かれ、資金調達能力が増大することにより財務体質の改善・充実を図ることができます。
(2)企業の社会的信用力と知名度の向上
上場会社となることで社会的に認知され、また将来性のある企業という評判が得られます。その結果、取引先・金融機関などの信用力が向上します。また、株式市況欄をはじめとする新聞報道等の機会が増えることで、会社の知名度が向上し、優秀な人材を獲得しやすくなります。
(3)社内管理体制の充実
企業情報の開示を行うことになるので、投資者をはじめとした第三者のチェックを受けなければならないことになります。これによって、経営者の個人的な経営から脱却し、組織的な企業運営体制が構築されることで、会社の内部管理体制の充実が図られます。
このように、IPOを行って上場会社となれば、多くのメリットを享受できる一方で、上場した企業が発行する有価証券は、不特定多数の投資者の投資対象となります。したがって、投資者保護の観点 から、決算発表、企業内容の適時適切な開示等が要求されるなど、これまで以上に、社会的責任や法的義務が生じることにもなります。
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3.IPO準備で重要なポイントとは
IPO準備において重要なポイントは、会社の内部統制制度を整えること、そして、会計システムの整備を行うことになります。
適切なタイミングで適切な情報を投資家に開示するためのプロセスを会社の内部に整備する必要があります。これはつまり、会社の透明性を確保する取り組みにほかなりません。すなわち、IPO準備で重要なポイントは会社の透明性を確保する取り組みを行うということなのです。
以下の節では、会社の透明性を高めるための取り組みをどのように整備するのかについて具体的に説明していきましょう。
4.IPO準備企業における経理の重要性
上場企業となると、企業情報の開示を行わなければなりません。上場企業となることで、投資者をはじめとした第三者のチェックを受けることから、個人的な経営から脱却し、組織的な企業運営が構築され、会社の内部管理体制の充実を図ることになります。
会社の内部管理体制を充実させるためには、会社経理をしっかりと行わなければなりません。
具体的には、上場会社には、財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するために必要な内部管理体制に関して内部統制報告書という書類を提出する義務があります。
上場会社は、①内部統制の基本枠組み、②評価の範囲・基準日・手続、③評価結果の3点を記載した内部報告書を提出しなければなりません。内部統制とは、会社法上の業務の適正を確保するために必要な体制とは異なり、財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するために必要な体制を意味するものです。
内部統制の整備は、上場の際の審査事項ともなっているので、IPO準備企業にも当然内部統制の整備が求められることになります。そして、上場準備の段階においても上場後に内部統制報告書が提出できるように準備をする必要があります
このように、内部管理体制の充実は、IPO準備企業にとっては極めて重要な課題です。内部管理体制の充実の中心的な役割を担うのは経理部となります。なぜなら、会社の財務計算に関する書類提出に記載する情報を管理しているのが経理部であるからです。そこで次節では、IPO準備企業において、経理はどのような役割を担うのか説明していきましょう。
5.IPO準備中に増える経理の仕事とは
IPO準備企業において、経理の役割は、詳細かつ正確な会社の財務情報を提供することにあります。そのための体制を整備することが、IPO準備企業における最も重要な経理の仕事です。上場すれば、報告の面では外部監査人である会計士によって四半期ごとの厳しい報告期限に対応できるようにしておかなければなりません。
IPOの前に、期限に追われる環境で業務を行う習慣を身につけることが重要です。すべての財務情報は正確でなければならないだけでなく、タイムリーでなければなりません。
締め切りに間に合わなかったり、データが不正確だったりすると、株価の下落につながり、会社の成長に大きな影響を与えることになりかねません。したがって、IPO準備企業の経理部にとって、厳しい締め切りに立ち向かう習慣を身につけ、正確かつタイムリーな財務情報を提供できる体制を整えることが、経理部の最も重要な仕事なのです。
まずは、財務報告のためのプロセスやシステムが、上場企業の厳しい基準を満たしているかどうかを確認しましょう。上場企業になると財務報告書の作成が増えます。
また、報告のためのプロセスを改善し、エラーや不整合のリスクを軽減する機会も探してみてください。新しい報告システムやソフトウェアなど、より長期的なソリューションが必要であることがわかるかもしれません。
たとえば、複数の開示資料で使用されている類似のデータを、単一のソースから取得することは可能でしょうか。勘定科目やレポートの照合作業を追加・強化すれば、エラーを発見しやすくなるのではないかなど、効率的な報告プロセスの確立のための準備がIPO準備企業の経理には求められるのです。
こうした仕事は、会計システムを1から作るということです。会計システムがすでに存在している既上場会社では経験できないものです。
さらに、上場企業の報告要件を採用した場合の影響を検討しておかなければなりません。上場企業の財務諸表を提出する場合、ほとんどの組織は、セグメント報告や1株当たり利益の要件が会計や開示に与える影響を分析しておく必要があります。
経理担当者と監査人との早期かつオープンな対話は、公開会社の監査を成功させ、金融庁の監視に耐える財務諸表を作成するための鍵となるでしょう。したがって、IPO準備を始めた段階で、早めに公認会計士などに相談しておくことが大切です。
6.経理がIPO準備企業で働くメリット・デメリット
上場企業は適切な内部統制制度の整備が必須であり、会計システムの整備も進んでいるのが普通です。
財務報告に必要となる情報を素早く提示できるようにしなければならないことから、こうした整備が進んでいるのです。しかし、そんな上場企業であっても、はじめからそうした会計システムが整備されていたわけではありません。むしろ、IPO準備の段階において、経理部がしっかりと準備したことによって、有効で効率的な会計システムの整備に成功したのです。
こうしたことを考えてみると、IPO準備企業で経理が働く最大のメリットも見えてくるでしょう。すなわち、IPO準備企業で経理として働く最大のメリットは実際に会計システムの整備に携わることができるということです。
はじめから上場していた企業に経理として入社した場合には、すでに会計システムが整備されており、そのシステムを使うことで必要な情報を入手したり、記帳などをすることができるでしょう。しかし、そのシステムや記帳のやり方は、はじめからあるものではないのです。
会社が必要な会計情報を実際に作り出すというプロセスを経験できることが、経理がIPO準備企業で働く最大のメリットであると言えるでしょう。
したがって、そのデメリットもメリットに伴って生み出されることになります。すなわち、IPO準備のために会計システム作りは激務になることがほぼ確実であるということです。
会計システムが十分に準備されていない状況で準備をはじめ、上場企業に求められるだけのアカウンタビリティーの履行ができるように準備しなければならないため、かなりストレス度合いの高いところで働くことになるでしょう。
その分、積むことができる経験は掛け替えのないものですが、デメリットを十分に理解しておくようにした方が良いでしょう。
7.IPO準備企業は激務というのは本当か?
IPO準備企業が激務になるのは間違いないでしょう。経営リソースがまだ十分でないことの多いIPO前の企業にとって専門知識とIPO経験のある経理部の従業員をあらかじめ採用しておくということは困難です。したがって、IPO準備企業の多くは、IPO経験がない経理部の従業員が、経験を「量」で補うしかありません。そのため、IPO準備企業の経理部は激務となってしまうのです。
しかし、IPO準備企業において得た経理の経験は他の企業で経験できるものではありません。一般に、IPO準備企業の経理部に勤務した経験を持つ人材は少ないものです。したがって、転職市場等では貴重な人材として重宝されることになるでしょう。
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8.IPO準備を経験した経理の今後のキャリアパスとは
前節で説明したように、IPO準備を経験した経理職員は貴重な人材としてどんな企業でも重宝されます。すでに上場している企業はもちろん、IPO準備をしている企業でも重宝されることになるでしょう。転職の際には、IPO準備の経験があることをアピールするようにすると良いです。
今後のキャリアパスとしては、IPO準備をしているベンチャー企業、既に上場していて、新たに株式を利用した資金調達の準備をしている企業などでの勤務を期待できるでしょう。IPOを考えている企業であれば、経理部門の長としての役職を用意してくれる企業もあるはずです。
9. おわりに
財務諸表の作成と開示業務、監査法人や証券会社の対応など、IPO準備企業において「経理」に求められる役割は多岐にわたります。また、IPO準備企業は企業規模も大きくはない場合が多く、上場準備に向けての管理部門の体制構築が大きな課題にもなっています。
上場準備会社は、上場するために多くのハードルや課題をクリアする必要があります。経理・財務担当は人員が不足している、適切な人材がアサインできていないなど、体制が整っていないことのほうが多いようです。
また、上場準備企業では経理担当者と財務担当者を明確に分離しなくてはならないため、新たに求人を出して経理担当者、財務担当者を募集することも多いのです。
この上場準備期間は通常業務とは違う業務も多く、IPO準備企業の経理としての経験は非常に貴重なものとなるでしょう。また、これからIPO準備をしようとしている企業にとってIPO経験を持つ経理人材のニーズは非常に高いといえます。
こうしてIPO準備企業をで実務経験を積み重ね、スキルを磨くことで市場価値は更に高まり、年収アップを図ることも可能です。
ただし、IPO準備のためだけに増員をしようとしているような企業には注意が必要です。晴れて上場できたあと上場後の管理部門の役割が薄くなっていまい、経理担当のモチベーションが下がってしまったり、IPOしたことで燃え尽きてしまい、せっかく採用した人材がIPO後に退職してしまうというケースも少なく有りません。
IPOは、数年にわたり長期で取り組む必要がありますが、上場審査を通過し上場企業の仲間入りをしたとしても、それがゴールではありません。上場企業として多くの投資家などから真価が問われるのは、株式が公開されてからではないでしょうか。
そういった意味でいえば、IPOはゴールではなく新たな企業価値を創造するためのスタートだと言えるでしょう。
経理担当の人も膨大な業務量を抱え、IPOできたということは1つの大きな実績として捉え、上場後には経理の役割も変わり新たなスタートを迎えます。
IPO準備企業での経験を活かしたキャリアパスを描いてみてください。
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