中小企業も対象!パワハラ防止法を知って健全な職場環境で働こう
2023/10/31
2020年に大企業を対象として既に施行されている労働施策総合推進法、いわゆるパワハラ防止法は、2022年4月1日から中小企業も対象になり施行開始となりました。
最近では、テレワークの増加にともなうコミュニケーション不足、メールやチャットで文字による意思疎通がしにくい、対面なら我慢できていたのについ余計なコメントをしてしまうなど無意識にハラスメント行為をしてしまう危険性が高まっています。
多様な働き方や価値観・コミュニケーション方法があるため、より一層パワハラへの意識向上が求められます。
働く人を守り、能力が十分に発揮できるような環境をつくるためにも、ハラスメント対策は必要不可欠だといえます。ハラスメントについて、中小企業を含めた全ての企業で具体的な防止措置をとることが義務化された今、実際にどのような対策をとる必要があるのでしょうか。
多くの会計事務所の大半は中小企業もしくは零細企業です。パワハラ防止法に準拠した明確なパワハラの防止措置がとられているはずです。
勤めている事務所の対応状況について確認してみるといいでしょう。そのためにも、まずはパワハラ防止法とはどのような法律なのか、パワハラの定義、企業が取るべき対応などについて、解説します。
コンテンツ目次
ハラスメントの現状
職場でのパワーハラスメントなどのハラスメントについては、もはや社会問題といっていいほど大きな問題と言えます。厚生労働省が発表している「職場のパワーハラスメントに関する実態調査報告書」では、直近の2020年度の実態調査報告書では、過去3年間に相談があったと回答した企業で最も高い割合を占めたのが「パワーハラスメント」でした。
こちらの調査では、セクシャルハラスメントやマタニティハラスメント、介護休業や男性の育児休業へのハラスメント、カスタマーハラスメントや就活等におけるハラスメントなども含めて調査しています。その中でも相談が多いという割合が高いパワーハラスメントは新たな職場の課題だと認識できるのではないでしょうか。
※参考①
厚生労働省HP 「職場のパワーハラスメントに関する実態調査について」
※参考②
厚生労働省HP 「令和2年度 厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査報告書(概要版)」
職場におけるパワーハラスメントとは
そもそも、職場におけるパワーハラスメントとは、「職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える、または職場環境を悪化させる行為」と定義されています。
以下の3つの要素を全て満たすことが条件です。なお、上司から部下へのハラスメントをイメージしがちですが、同僚から同僚、部下から上司への言動(発言者が業務上必要な知識や豊富な経験を有している場合など)でも該当するケースがあります。
- 優越的な関係を背景とした言動
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
- 労働者の就業環境が害されるもの(精神的・身体的苦痛を与える言動)
ただし客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しません。研修などを通じ、何がパワハラにあたるのか、業務指示や指導とハラスメントの境目は何かということを全社員が学ぶことが大切です。
パワハラにあたる典型的な6つの行為
厚生労働省の指針では、パワハラに当たる代表的な言動を大きく6つに類型しています。
・身体的な攻撃
蹴ったり、殴ったり、体に危害を加える
・精神的な攻撃
脅迫や名誉毀損、侮辱、ひどい暴言など精神的な攻撃を加える
・人間関係からの切り離し
隔離や仲間外れ、無視など個人を疎外する
・過大な要求
業務上明らかに不要なことや遂行不可能な業務を押し付ける
・過小な要求
業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じる、もしくは仕事を与えない
・個の侵害
私的なことに過度に立ち入る
ただし、これらの6つは典型的な例であり、必ずしもこれに該当しない行為でも先述の定義にあてはまると判断されれば、ハラスメントの扱いになります。
※参考:あかるい職場応援団(厚生労働省委託事業) 「ハラスメントの類型と種類」
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パワハラ防止法と必要な措置
2020年6月1日より施行されたいわゆる「パワハラ防止法」(改正労働施策総合推進法)は、先に大企業を対象としていました。企業に課せられた義務はいわゆる同法の第三十条に示されており、「雇用管理上必要な措置を講じること」とされています。
具体的な「措置」については厚生労働省から公表されている「職場におけるパワーハラスメントに関して雇用管理上講ずべき措置等に関する指針」にて記載があります。義務付けられる措置は主に以下の4点です。
・事業主によるパワハラ防止の社内方針の明確化と周知・啓発
事業主・経営者によるパワハラの禁止を宣言し、それに基づきパワハラ防止への方針(実行した者への厳正な対処等)や就業規則などにルールとして明確化する。さらに全社員向けの研修、管理者への教育等で周知・啓発を行う。
・苦情などに対する相談体制の整備
パワハラの被害にあった者が相談できる相談窓口を設置すること、窓口設置を全社員に周知徹底する。相談窓口の担当者が相談内容や状況に応じて適切に対処できるようフローの確認、体制整備、窓口側の教育が必要となる。
・被害を受けた労働者へのケアや再発防止
パワハラ発覚後、速やかに事実関係を正確に把握し、被害者に配慮して対応する。加害者へも適切な処置を講じる。さらに再発防止策を実施する。
・そのほか併せて講ずべき措置
被害者(相談者)、加害者のプライバシーを保護するために必要な措置を講じる。ルール上、プライバシーが保護されることや、相談したことでその相談者が解雇されるなど不利益な扱いを受けないと定め、全社員に対して周知する。
※参考 厚生労働省HP
「職場におけるハラスメントの防止のために(セクシュアルハラスメント/妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント/パワーハラスメント)」
中小企業の定義とは
パワハラ防止法では2022年4月1日から義務化の対象となった中小企業とは、どのような規模の企業を指すのでしょうか。中小企業庁のホームページでは、中小企業の定義を業種ごとに以下のように説明しています。
業種分類 | 中小企業基本法の定義 |
製造業その他 | 日資本金の額又は出資の総額が3億円以下の会社又は 常時使用する従業員の数が300人以下の会社及び個人 |
卸売業 | 資本金の額又は出資の総額が1億円以下の会社又は 常時使用する従業員の数が100人以下の会社及び個人 |
小売業 | 資本金の額又は出資の総額が5千万円以下の会社又は 常時使用する従業員の数が50人以下の会社及び個人 所 |
サービス業 | 資本金の額又は出資の総額が5千万円以下の会社又は 常時使用する従業員の数が100人以下の会社及び個人 所 |
中小企業における対応時の注意点
パワハラ防止法が中小企業において求める措置は先述の「措置」の内容と同様です。ただ、中小企業の場合、規模が小さいために相談窓口の体制整備やプライバシー保護の管理等で難しい面があります。またルールだけあっても社員への周知が行われていなければ意味がありません。
もし、パワハラ対応への知識や人手不足を感じる場合は、社会保険労務士へ相談する、厚生労働省委託事業の専門団体※の情報や研修用動画などを参考に進める、研修や相談窓口を外部へ委託するケースが多いようです。
パワハラ防止法に未対応でいることのリスクとは
仮に職場でパワハラが発生しているのにも関わらず、放置や黙認をした場合はどうなるのでしょうか。考えられるリスクを以下にあげます。
・職場の雰囲気の悪化、生産性の低下
パワハラを放置すると、当事者間だけでなく職場全体の雰囲気が悪くなり、業務に必要な健全なコミュニケーションが取りにくい状況になりがちです。また、問題を放置する会社への不信感が募る人や、仕事へのモチベーションが低下する人が増える可能性があります。職場で社員のストレスが増大して集中力・意欲が下がり、生産性の低下を招くのです。
・人材の維持、確保が難しくなる
パワハラが原因で欠勤や長期の休職という事態を招くことは頻繁にあります。欠勤者や休職者がいれば人手不足になり、他の社員の業務負荷が高まる可能性もあります。それにより、働きやすい職場を求めて優秀な人材が退職してしまうことが懸念されます。さらにパワハラがある企業として口コミが広がると人材確保も困難になってしまうのです。
・損害賠償問題
企業は社員に対して職場環境配慮義務(いじめ防止・ハラスメント対策の義務)があります。パワハラを放置するとこれらの責任を果たさないことになります。また、損害賠償を請求されたり問題が公になって企業名が公表されたりして、イメージダウンに繋がります。
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パワハラ防止法に罰則はあるのか?
パワハラ防止法に具体的な罰則規定は現在ありません。ただし、場合により厚生労働省から指導や勧告を受ける可能性があり、勧告に対して適切な対応を取らなければ社名とともにその事実を公表される可能性があります。
また、被害者が声をあげ損害賠償を請求された場合など、公に話題が大きく取り上げられる可能性もゼロではありません。罰則がないからとはいえ、リスクが全くないとは言えないのが事実です。
まとめ
これまでの解説でパワハラ防止法がどのような内容なのかご理解いただけたかと思います。
事業主・経営者も、社員のスキルが十分に発揮でき、安心して働いてもらうことが事業の成長に通じることは理解しているはずです。もし仮に社内にパワハラがあることを目にしたり、自身がそのような言動を受けたりした場合、きちんと相談できる窓口が用意されていて、その後の対応も適切にされる環境であるなら、社員は安心して業務に集中できるはずです。
会計事務所は中小企業にあたる個人事務所、小規模事務所が大半のため、代表税理士の意向が強く反映されたりするケースが多いかと思います。もしパワハラかもと思ったら我慢せずに外部の相談窓口でもいいので相談してみましょう。
もし、ハラスメントの問題で解決される見通しが立たない、もしくは改善に向けて多大な労力を費やす可能性があるのでしたら、転職を検討するのも1つの方法です。本来のスキルや実力が発揮できない環境で働き続けるのは非常にストレスも大きいと思います。
転職活動についてのお悩みは、転職エージェントに相談してみるのがおすすめです。会計業界で転職したいということであれば、会計業界専門の転職エージェントにまずは相談してみてください。
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