証憑とは?種類や保存期間、電子帳簿保存法との関連を解説
2023/11/01
ビジネスシーンでは証憑(しょうひょう)という用語をよく耳にしますよね。
会計業界で経理職や会計事務所にお勤めの場合は間違いなくご存知ですよね。
証憑は企業会計に携わる人にとって欠かせない書類であり、定められた期間まで保存しておかなければならない書類でもあります。
しかし、正確に理解しているかと聞かれると、返答に困ってしまう人もいらっしゃると思います。
とは言っても今更上司や先輩に基本的な証憑について質問するもの恥ずかしいですよね。
電子帳簿保存法とも密接な関係があり、証憑のデジタル化も進んでいる昨今、具体的に証憑に該当する書類とはなにか、また保存期間が紙媒体から電子媒体に変わるとどうなるのかなどについてまで詳細を理解しておかないと、これからのデジタル化の波に飲まれてしまうようなことにもなりかねません。
ここでは、会計で使用される証憑の種類と保存期間について詳しくご紹介します。
これから会計業界を目指している人も、必ず覚えておいたほうが良い内容となっておりますのでご一読ください。
コンテンツ目次
証憑とは「証拠書類」
刑事ドラマで「物的証拠を集める裏付け捜査」という言葉を聞いたことはありせんか?証憑とは会計業界の物的証拠のことを言います。ビジネスでは1つ1つの取引にその裏付けとなる書類が存在します。例えば、取引先との契約書や見積書などから備品を購入した時のレシート、従業員へ給料を記載した給与支払明細書などが取引を証明する証憑となります。
証憑の読み方は「しょうひょう」と読みますので覚えておいてください。
証憑の重要性
証憑は経理や会計において取引の事実を証明する大事な書類です。もし、証憑がない取引があった場合、その取引が実際にあったのかどうか判断することができません。例えるとすると、裁判で物証なしで有罪にすることが難しいように、証憑なしで商取引の事実を確認することは難しいのです。特に、税務署からの税務調査が行われる際は、必ず証憑の確認が行われるため、税務署に取引を証明するためにも証憑は必ず保管しておく必要があります。
証憑は帳票の1つ
証憑と似た言葉で「帳票」という言葉があります。帳票は証憑よりも大きな分類のことであり、会計経理に関する書類のことも総称して帳票と言います。帳票は「証憑」「伝票」「帳簿」の3つで構成されており、各書類の役割が異なります。
証憑⇒伝票⇒帳簿の順番を覚えておこう
帳票である証憑・伝票・帳簿はどれも取引に関する書類です。これらの3つの書類の異なる点は作成する時期が違うということです。
証憑は主に取引が行われた時に作成される書類です。取引の証拠となります。次に、その証憑が経理に回って伝票が作成されます。伝票はお金の流れや取引の内容を記録するもので、その支出や収入に応じて「入出金伝票・売上伝票・仕入伝票・振替伝票」に分けて伝票が作成されます。
伝票の作成が終わると、伝票の内容を各帳簿に転記していきます。現金出納帳や買掛帳、売掛帳など、総勘定元帳を補助するものを補助元帳といい、仕訳帳や総勘定元帳を主要簿と言います。最近では会計ソフトの発達により、証憑にもとづいて仕訳を入力することで全ての帳簿が連動するようになっているため、伝票の内容を帳簿に転記する機会は滅多にありません。
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証憑の種類は4種類
証憑は大きく分類すると4種類になります。各種類の証憑について見ていきましょう。
売上を証明する証憑
自社の売上を証明する証憑には「契約書・納品書・請求書」があります。売上は会社の生命線です。売上を証明する証憑を管理できていないということは、会社の管理ができていないということでもあります。売上に関する証憑をきちんと管理することは経営において大変重要です。
契約書
売上に関する契約書には売買契約書や請負契約書、業務委託契約書など、商品やサービスによって様式が異なります。どの様式にしても「販売するもの、または供給するサービス」「代金と代金お支払い方法」「引き渡し方法」が共通して記載されています。
納品書
商品やサービスなどの成果物を納品した証として発行するものが納品書です。納品書は必ず必要になる証憑ではありませんが、商品やサービスを受け取った証明としてビジネスで大きな役割を果たしているため、多くの会社で納品書を発行しています。
請求書
商品やサービスなどの成果物を納品した後、代金を支払ってもらうために発行する証憑が請求書です。請求書を発行された側は、請求書の内容にもとづいて代金の支払いをすることになるため、最終的な売上の金額や内容を把握する上で大変重要な証憑になります。
領収書
請求書にもとづいて代金の支払いが行われた後に発行されるものが領収書です。代金を受け取ったことを証明する証憑であり、売上金が入金になったことがわかる書類になります。
仕入を証明する証憑
仕入を証明する帳票には「注文書・仕入伝票」などがあります。
注文書・仕入伝票
原材料などの仕入れを行う際に利用される証憑が発注書または仕入伝票です。商品の製造などに必要な材料をどれくらい発注するかが記載されています。発注書にもとづいて納品が行われるため、仕入活動において起点となる証憑になります。
雇用や給料に関する証憑
証憑は売上や仕入以外に雇用や給料に関して作成するものも含まれます。
雇用契約書
民法で定められた雇用主と労働者の間で交わされる契約書が雇用契約書です。雇用契約書は双方が同意してことを証明します。労働条件通知書の内容を雇用契約書に含めて雇用契約書兼労働条件通知書にすることも可能です。
賃金台帳・給料明細
「誰にいくら給料を支払ったのか」を確認することができるのが賃金台帳や給料明細です。勤務時間がわかるタイムカードや出勤簿も雇用・給料関連の証憑になります。
その他の証憑
売上や仕入、雇用・給料に関するもの以外にも会社が管理しなければならない証憑が多くあります。預金通帳や事務所の賃貸借契約書、金融機関との金銭消費貸借契約書や借入返済予定表などが該当します。
証憑の保管は法律で定められている
証憑を適正に管理することは会社や事業を存続していくために必要不可欠です。ビジネスでのトラブル回避するための役に立ちますし、証憑を見直すことで社内監査業務を行うこともできます。取引の存在を証明する証憑の保管については、様々な法律で保管期間が定められています。
税法が定める証憑の保管期間
証憑にもとづいて会計業務が行われ、会計業務をもとに決算業務、税務申告が行われます。税務申告後、場合によっては税務署より税務調査が行われることもあり、税務署が税務調査で検証が行いやすくするために税法で帳簿や証憑の保管期間が定められています。
法人税法で定められている保管期間
帳簿(決算書、総勘定元帳、仕訳帳、現金出納帳、売掛金元帳、買掛金元帳、固定資産台帳、売上帳、仕入帳など)
⇒7年
書類棚卸表、貸借対照表、損益計算書、注文書、契約書、領収書)
⇒7年
※欠損金が発生している平成30年以降の税務申告では10年の保管が必要です。
消費税法で定められている保管期間
消費税に関する書類(領収書や請求書など)
⇒7年
会社法で定められている保管期間
決算書、仕訳帳、現金出納帳、総勘定元帳など
⇒10年
人事労務関連の保管期間
3-3-1.税法での保管期間
源泉徴収簿・給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
⇒7年
労働基準法での保管期間
雇用契約書、労働者名簿、タイムカードなど
⇒3年
保管期間を守らないと罰則規定がある
帳簿や証憑の保管期間を守らなければ「税法上の罰則」と「会社法上の罰則」を科されるおそれがあります。
税法上の罰則
・経費が認められない場合がある
税務調査が行われた際に、取引を証明できる証憑がなければ経費として認められない可能性があります。経費として認められなければ、その分の税務上の利益が増加することになり、税金の支払いと延滞金などのペナルティの支払いが発生します。
・消費税の控除が認められない場合がある
消費税の計算では支払った経費の消費税を売上げに係る消費税から控除することで消費税の納付額を算出します。支払った消費税を控除するためには証憑の保管が義務付けられているため、証憑を保管していなければ消費税の控除が認められない可能性があります。
・青色申告が取り消されてしまう場合がある
個人事業主の場合、多くの特典を受けることができる青色申告を取り消されてしまう可能性があります。
会社法上の罰則
会社法上では帳簿書類の保管義務があり、違反した場合は100万円以下の過料が科される可能性があります。
加速する証憑の電子化
2020年以降、新型コロナウイルス感染症の影響もあり、テレワークの導入が急速に進みました。テレワークの導入が加速したことにより、今まで行ってきた紙媒体での証憑やりとりが足かせになったりするようなことも多く、証憑をデジタル化する動きが活発になってきています。
そのような社会背景に合わせるように令和3年度も電子帳簿保存法の改正が行われ2022年1月には施行されます。
デジタル化に向けて法改正がされ、これまでの内容から多くのことが緩和されたことにより証憑のデジタル化はしやすくなり、上場企業などの大企業だけではなく中小企業であっても証憑の電子化はさらに加速することは間違いないでしょう。
電子帳簿保存法とはe-文書法のなかの一部であり、帳簿や証憑を紙媒体ではなくデータで電子保存することができるようにするものです。紙の証憑についてはスキャナ保存制度を利用して電子保存することができます。
このように企業のデジタル化が進むことで、会計事務所も対応しなくてはならない状況が押し寄せています。
IT活用に二の足を踏んでいるようですと、これからのデジタル化についていくことが難しくなり、多くのクライアントを失ってしまう可能性もあるのです。
電子帳簿保存法などの内容を正しく理解することにより、デジタル化、IT活用が複雑で難解なことではないと気が付かれると思います。
正確に理解することで、どのような対応を進めるべきかの指針が見えてくるでしょう。
まとめ
証憑は取引の裏付けになる重要な書類です。適正な会計処理をするため以外にも、誤りがないか確認するために一定期間の保管が義務付けられています。働き方改革や新型コロナウイルス感染症による働き方の変化により、ペーパーレス化や電子契約などが急速に導入され、それに合わせ電子帳簿保存法などの法律も改正されてきています。
すでにニューノーマルという言葉が一般的になっているほど、働き方も多様化しています。新型コロナウィルス感染症が収束したとしても、テレワーク、リモートワークは無くならないでしょう。テレワークを実現する上でもペーパーレス化、電子契約は対応が必須ですので、この変革期も半ばに差し掛かっているうちにデジタル化やIT活用を会計事務所も取り組んでおくことをおすすめします。
会計事務所に勤務していると制度の急激な変化に翻弄されてしまいがちですが、正確に制度を理解し、クライアントの業務に支障がでないよう工夫することは必須になります。
IT活用をコンサルティングできるようになると会計事務所としての強みにもなり、クライアントにも貢献できるのではないでしょうか。