下請法とインボイス制度の関係とは?税理士を目指しているなら必見!
2023/11/01
フリーランスや個人事業主として働く人は、契約や価格交渉等を個人で行う必要があるため、さまざまな法令をチェックする必要があります。
改正案が検討されている下請法や、2023年10月1日に施行されるインボイス制度はご存知でしょうか。これらは特に、免税事業者のフリーランスや個人事業主は注意が必要なものとして、最近話題にあがる機会が多いトピックスです。
また、インボイス制度開始に向けて免税事業者と取引のある課税事業者でも取引条件の交渉など、すでに準備を進めているケースがあるでしょう。
免税事業者として不当な条件を提示されないよう、また、課税事業者側として気付かないうちに禁止行為を行ってしまうことにならないように、関係する法令について理解を深めることが必要です。
クライアントにフリーランスや個人事業主が多い会計事務所や、取引先にフリーランスや個人事業主が多いような一般企業の経理職の人にも深く関係がありますが、ご理解されているでしょうか?
本記事では、下請法や独禁法とインボイス制度にどのような関連があるのかを解説するとともに、健全な取引ができるようにするため、必要なポイントについて解説します。
この記事については、税理士を目指している方や会計事務所で働いている方は、把握しておいたほうがいい内容になっていますので、ぜひご覧ください。
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コンテンツ目次
下請法とは
下請法は正しくは「下請代金支払遅延等防止法」です。以下の2点の実現を目的としています。
- 親業者の下請け業者に対する取引を公正ならしめること
- 下請事業者の利益を保護すること
取引においては下請事業者に発注する親事業者の方の立場が強くなりがちです。発注後に下請代金を減額したり、支払を遅延したりする親事業者も存在します。下請法は、このような優越的地位にある親事業者を規制して下請け事業者の利益を保護するものです。
下請法の対象は
下請法の適用対象となるかを判断するには、取引内容や資本金について確認が必要です。以下、①~④のいずれかに該当する場合、適用対象となります。
<製造委託・修理委託の場合>
- 親規事業者の資本金が1,000万円~3億円で下請事業者が1,000万円以下
- 親事業者の資本金が3億円超で下請事業者が3億円以下
<情報成果物作成委託・役務提供委託の場合>
- 親事業者の資本金が1,000万円~5,000万円で下請事業者が1,000万円以下
- 親事業者の資本金が1,000万円超で下請事業者が5,000万円以下
契約時の内容が不安な場合や、万が一、取引先とトラブルになってしまった場合は弁護士など企業法務の専門家に頼り、速やかに解決できるようにしましょう。
なお、2022年9月には、下請側がフリーランスの場合、親事業者の資本金の1,000万円以上という要件がなくなる改正案が検討されています。これにより、フリーランスに発注をする機会の多い小規模の事業者が規制対象となり、フリーランスの保護が期待されます。
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親事業者の4つの遵守義務
下請法では、下請事業者の利益保護のために親事業者に対して次の4つの義務が課されています。
- 書面の交付義務 :発注の際、直ちにいわゆる3条書面を交付すること
- 支払期日を定める義務 :下請代金の支払期日を給付の受領後60日以内に定めること
- 書類の作成・保存義務 :下請取引の内容を記載した書類を作成し、2年間保存すること
- 遅延利息の支払義務 :支払が遅延した場合は遅延利息を支払うこと
親事業者が禁止されている行為
親事業者に対して次の11項目の禁止事項が課せられています。下請事業者が了承していても、親事業者に違法性の認識がなくてもこの禁止行為に当たる行為をした場合には下請法に違反したことになります。
- 商品の受領拒否
- 下請代金の支払遅延(下請代金を受領後60日以内に定められた支払期日までに支払わないこと。)
- 下請代金の不当な減額
- 返品
- いわゆる買いたたき (著しく低い下請代金を不当に定めること。)
- 親事業者が指定物の購入や利用の強制
- 報復措置 (下請事業者が親事業者の不公正な行為を公正取引委員会又は中小企業庁に知らせたことを理由に、その下請け事業者へ取引量の削減・取引停止等の不利益な取扱いをすること)
- 有償支給原材料等の対価の早期決済
- 割引困難な手形の交付
- 不当な経済上の利益の提供要請
- 不当な給付内容の変更及び不当なやり直し
違反した場合の罰則
親事業者が下請法に違反した場合、立入調査がされた後に公正取引委員会より「勧告」「指導」「罰金」などの対応がなされます。
勧告を受けた場合には公正取引委員会のWEBサイト上で「下請法勧告一覧」として企業名や違反内容、勧告概要等が公表され、社会的信頼を失うことになります。また、親事業者の義務に関する違反などで50万円以下の罰金が科されることがあります。
もし、違反行為を受けた場合は声をあげることも大切です。中小企業庁では相談窓口(下請かけこみ寺)なども設けているので、相談するのも良いでしょう。
下請法と消費税転嫁
これまで、消費税の下請事業者への転嫁に焦点が置かれてきた背景から、下請法は消費税を含めた取引の対価に関しても規制をしていています。
消費税の適正な取り扱いや転嫁への対策は2013年6月に成立(2013年10月施行)した「消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法」において様々な施策が講じられてきました。
この法律は2021年3月に期限を迎えていますが、消費税転嫁に関する対応として、下請法やその他の法令の観点から、規制や措置を行っています。
インボイス制度とは
消費税に関し、適格請求書等保存方式(いわゆるインボイス制度)が2023年10月より施行されます。
インボイス制度とは、現在義務付けられている「区分記載請求書」に一定の項目を追加して記載した適格請求書の保存が仕入税額控除の要件となります。ただし、適格請求書を交付できるのは、適格請求書発行事業者として登録を受けた課税事業者のみです。免税事業者は発行することはできません。
そのため、現行制度のもとでは、課税事業者が免税事業者からの仕入れについて課税仕入に該当すれば仕入税額控除が可能ですが、インボイス制度開始後は免税事業者からの仕入れに関しては原則、消費税の仕入税額控除をすることができなくなります。
また、インボイス制度で何が変わるのかについて、更に詳しく知りたい場合は「インボイス制度で消費税はこう変わる ! 会計人が知っておくべきこととは?」をご覧ください。
独占禁止法も関係する?
独占禁止法の正式名称は、「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」です。独占禁止法は構成かつ自由な競争を促進し、事業者が自主的な判断で自由に活動できるようにすることを目的として定められました。
独占禁止法では、取引上、優越した地位にある事業者が取引の相手方に対して不当な不利益を課すことを「優越的地位濫用」として規制しています。その視点で、消費税転嫁にあたる行為についても、独占禁止法違反として判断されるケースがあります。
下請法や独占禁止法違反となる可能性があるケース
先述の通り、インボイス制度の施行後は課税事業者と免税事業者との間の取引の場合に注意が必要です。課税事業者は仕入税額控除を受けられない免税事業者への支払いに対し、各法令違反の該当となるような不適切な対応を取る可能性が懸念されます。
たとえば、以下のような行為は下請法の観点から問題となります。
・下請事業者が免税事業者であることを理由として親事業者が消費税相当額の一部または全部を支払わない行為
→禁止行為のひとつの「下請代金の減額」とみなされます
・下請事業者が免税事業者から課税事業者になったとき、免税事業者を前提とした単価からの交渉に応じず、一方的に従来の単価を据え置いて発注する行為
→禁止行為のひとつの「買いたたき」に当たる可能性があります
また、いわゆる独占禁止法違反となり得るケースには以下のようなものがあります。
・課税事業者が免税事業者である取引先に対して「課税事業者」になるように求め、それに応じない場合に取引価格の引き下げを行う、もしくは取引を打ち切るなどと一方的に通告すること
→免税事業者に対して不当な取引価格の引き下げや取引の解除などは違法となり得ます。さらに、課税事業者になる際、価格交渉の場で明示的な協議をせずに価格を据え置く場合も同様です。
※参考:インボイス制度後の免税事業者との取引に係る下請法等の考え方(中小企業庁)
インボイス制度施行に向けて対応しておくこと
これまで下請法やインボイス制度との関連を中心に説明をしてきました。インボイス制度では仕入税額控除を行う課税事業者側が法令違反に十分注意したうえでの取引の見直しは必須です。
しかし、それよりも仕入税額控除を適用したい課税事業者が、既存の仕入れ先や新たな仕入れ先が適格請求書発行事業者か同課の確認や受け取ったインボイスが記載事項を満たしているかどうかの確認対応が必要になります。
インボイスをすべて目視するのは大変なうえに、インボイスに不備があれば仕入税額控除を受けられません。チェック体制や業務フローの整備も大切です。
また、インボイス制度は緩和される可能性があります。2023年に施行されるまでの間、インボイス制度に関しての動向もチェックしておくといいでしょう。
まとめ
フリーランスや個人事業主が下請法を把握していないと、インボイス制度の施行後に免税事業者ということで不当な対応をされることが考えられます。
免税事業者ということで消費税の値下げを要求される、課税事業者になったとしても消費税分の値上げが承認されなかったといった事態を招く可能性があります。トラブルとなり泣き寝入りすることのないよう、注意しましょう。
しかし、何の知識もないままに取引の不当な扱いに気付き、対処することは難しいでしょう。不安があれば会計事務所などの専門家に相談することをお勧めします。正確に理解して自分の身を守るために、日頃から情報収集を行いましょう。
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投稿者情報
- 公認会計士資格を取得しており、現役で公認会計士として仕事をしています。税理士資格も持っていますので、財務、会計、税務、監査などの専門的な業務経験も豊富にあります。ライターとして5年以上執筆しており、専門的でリアルな内容が好評いただいています。
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