会計事務所のITリテラシーを高めるメリットとその必要性とは?
2023/11/01
クラウド会計ソフトや電子帳簿法の施行などを背景に、会計事務所や税理士の業界でもさまざまなITツールの活用による効率化が推進されています。しかし、会計事務所におけるITリテラシーの欠如によるトラブルなど、情報不足による事故や障害も比例して急増しているのです。
会計事務所は個人事務所や、小規模な事務所が大半を占めます。所長である税理士や会計士の高齢化が進むことでITリテラシーが欠如したまま業務を行っているという可能性もあるのです。
近年、官民におけるデジタル化機運の高まりやデジタルトランス推進(DX推進)の潮流のなか、ITリテラシーの必要性や教育に関心が高まり、ITリテラシーとは何かという議論がなされる場も増えました。今後、会計事務所や税理士業界においても必須となることは確実です。
では、ITリテラシーとはどういった意味なのでしょう?耳にしていても曖昧な理解のままの人が多いのではないでしょうか。この記事では、ITリテラシーの詳細な意味と、ITリテラシーが低いことによるリスク、向上した場合のメリットなどを解説します。
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コンテンツ目次
ITリテラシーとは?
そもそも、リテラシーは英語で「literacy」と書きます。その意味が、もともとは「読み書きする能力」を指していましたが、そこから転じ、現代では「ある分野に関する知識や使いこなす力」というものとして使われています。
ITリテラシーは「IT」と「リテラシー」を組み合わせて、パソコンやスマートフォンなどの機器や、インターネット、SNSなどの情報ツールを理解して使いこなす力を意味します。
公のものとして公表されているのは、厚生労働省の2017年に発表した「平成29年度ITリテラシーの習得カリキュラムに関する調査研究報告書(※)」があります。この報告書で、「基礎的ITリテラシー」としてITリテラシーの定義を「現在入手・利用可能なITを使いこなして、企業・業務の生産性向上やビジネスチャンスの創出・拡大に結び付けるのに必要な土台となる能力のこと。
いわゆるIT企業で働く者だけでなく、ITを活用する企業(ITのユーザー企業)で働く者を含め、すべてのビジネスパーソンが今後標準的に装備することを期待されるもの。」としています。
※参考:厚生労働省「平成29年度ITリテラシーの習得カリキュラムに関する調査研究報告書」
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ITリテラシーの3つの意味
ITリテラシーを構成するのは、以下の3つの能力です。
情報基礎リテラシー
情報リテラシーとは情報を正しく使うための能力のことです。現代においては多くのメディアが情報を発信し、そのスピードも速くなるばかりです。膨大な情報の中から求めている情報を探し出し、それが正しい内容かを精査して使う力が重要視されています。その能力がなければ、誤りや偽りのある情報に振り回されることになってしまうためです。
コンピューターリテラシー
コンピューターリテラシーは、コンピューターやスマートフォンのようなデバイスを操作する技術や知識を指します。パソコンはビジネスで使用することは当然の時代です。
多くの職場で、キーボードやマウスの操作、基本的なアプリケーションが使えるスキルは、基本的な能力として身に付けていることが前提条件とされていることが多いでしょう。システムエンジニア職などの専門職にはプログラミング言語を扱える能力が標準とされているケースもあります。
ネットワークリテラシー
ネットワークリテラシーは、ネットワークやセキュリティに関する技術的な知識を理解する力を意味しています。ネットワークに関する技術的な知識や情報セキュリティに関する知識を主に指します。
近年ではこれらに加え、「インターネットの正しい使い方」や「インターネットを利用するうえでのモラル」という意味でも用いられます。個人のSNSでの発言やインターネット上の書き込みをきっかけに企業側の問題となるリスクがあります。そのためインターネット上で生じる可能性があるトラブルを予防する能力、トラブル時に対処できるような能力が個人レベルで求められているのです。
従業員のITリテラシーが低い場合のリスク
もし従業員のITリテラシーの低い場合、どのような問題が起こるのでしょうか。
生産性が低下
ITの活用によって業務効率化をめざす職場は多くあるはずです。しかし、ITリテラシーが低く、PCやデバイスなどのツールや情報が適切に扱われないでいると、手作業の業務が残り続ける・情報の伝達が迅速に行えないなど、生産性の低い環境から抜け出せません。
多様な働き方に対応できない
コロナ禍を通じて普及が広まったテレワークなどの多様な働き方への移行においてもITリテラシーは重要です。ITリテラシーが低いままテレワークなどを行えば情報漏洩などのリスクが高まりますし、同様の事態になった場合の業務移行がスムーズに行えません。
ハンコ文化や属人的な業務フローなど日本の組織特有の縛りが多い環境から抜け出し、新たな働き方や業務の進め方に対応できるよう、ITリテラシーが土台として必要です。
情報漏洩やウィルスなどのリスク
さらに、IT・ネットワークやセキュリティへの理解が不十分だと、テレワークの場合に限らず、情報漏洩やPCのウィルス感染などが懸念されます。研修などを通じて従業員が基本的な防止策や対処方法を理解して備えていることがポイントです。
SNSでの炎上やトラブル
従業員個人がプライベートで利用するネットやSNSなどにも注意が必要です。SNSでの投稿内容や書き込みがモラルから外れていると炎上してしまい、職場までその悪影響を受けるケースがあります。
また、フェイクニュースやデマ情報をソースにしていることに気付かずそのような行為に至っていることもあります。対策として従業員へのITリテラシーの教育やコンプライアンス意識の向上が課題です。
会計事務所のスタッフがITリテラシーを高める必要性とは
ITリテラシーが低いままでは、さまざまな面で不便なことや不利益を受け、生活だけでなくビジネスにおいても置いて行かれてしまうでしょう。会計事務所や税理士の業界においても同様で、IT活用やDX推進に代表されるこれまでの動きに対応できるか否かが問われ、サービスの提供内容や顧客からのニーズ、契約継続への変化が生じたかと思います。
もしITリテラシーを持った専門家として対応ができれば顧客からの信頼度が増します。会計事務所のスタッフや税理士業界においても、このITリテラシーは重要なものなのです。
ITリテラシーを高めるために必要なこと
従業員のITリテラシーを高めるには、組織全体での底上げが必要です。主に、以下のような手法があげられます。
ITリテラシー講座の活用や社員研修の実施
企業にとっては、従業員に対して行うITリテラシーの教育がとても重要です。専門家が行うITリテラシーをテーマとした講座の活用や、社員研修を実施することで、普段の生活や業務のなかに潜むリスクを知ってもらい、ITリテラシーの重要性を理解してもらいましょう。そこに、コンプライアンスの教育を織り込むとより効果的でしょう。
ITリテラシーに関連する資格取得の推奨
ITパスポートなど、資格を取得することでITリテラシーの向上に有効な策です。受験費用や教材費用などを職場として補助する制度や資格取得時に一時金や資格手当を出すといった制度を作れば、従業員がモチベーションを高めて資格取得をめざすことができるでしょう。
具体的にはITパスポートや情報セキュリティマネジメント試験などパソコン検定、IC3などがあります。
ITリテラシーが向上することで得られるメリット
従業員のITリテラシーが高まると、さまざまなリスクを回避しメリットを得られます。特に、情報の取り扱いやツールを使いこなすことで、職場の業務の質が向上することが考えられます。以下の項目はITリテラシーが向上することで得られる代表的なメリットです。
- 情報収集のスピードや量、質が向上
- 業務効率化を促進、生産性アップ
- セキュリティの強化、情報資産の適切な管理・保守の実現
- トラブル時の対応が円滑化
DX推進にも欠かせないITリテラシー
総務省によりDX推進は各企業が取り組まなければならない課題とされています。そしてDX推進には専門的な知識を有した担当部門(組織)が体制として必要と言われています。ただし、DX推進を拡大して定着させるには、従業員の全体のITリテラシーが向上することがカギになります。
DXの推進には部署や業務範囲の枠を超えた連携が必要なためです。ITリテラシーが高い従業員の存在はDX推進による新たなツールや環境、業務の流れといった変化への理解や対応を早め、定着しやすくなるでしょう。
まとめ
従業員のITリテラシーの欠如はビジネスへの弊害を生みます。DX推進のためにITを利用した業務効率化を実践するには、従業員のITリテラシーの向上が重要な要素と言えます。
IT担当の従業員だけでなく、従業員全体のITリテラシーが向上することでIT化がより促進しやすく、情報セキュリティの強化も期待できます。これらのことは会計事務所や税理士の業界でも同様です。
顧客がDX推進のためIT化を進めるケースや、事務所自体のDX推進を実現するためにITリテラシーを高めた従業員がいることが重要です。従業員のITリテラシーを高めるために環境を整備することや教育を行うことは今後のために必要な投資となるでしょう。
また、基本的なITリテラシーを高めることは、会計事務所でも最早必須事項として必要性に迫られる状況になってきています。会計ソフトもクラウド化したり、証票などの様々な書類は電子化したり、契約行為も電子契約となったりと、様々なシーンでIT化の波が押し寄せてきています。
ITリテラシーの向上は、円滑な会計事務所運営する上でも必要なことと考え、今後の対策を検討してみてはいかがでしょうか。
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投稿者情報
- 公認会計士資格を取得しており、現役で公認会計士として仕事をしています。税理士資格も持っていますので、財務、会計、税務、監査などの専門的な業務経験も豊富にあります。ライターとして5年以上執筆しており、専門的でリアルな内容が好評いただいています。
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